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Aria of Echoes 52
「そうですね……少し不安になりやすような気がします。私の診た中での傾向ですけれど」
凪は「大丈夫」と言ってもらえなかったことに若干の不安を感じてはいたが、この医者の言葉は裏を返せば本当のことをはっきりと言ってくれる人なんだと理解することができた。
「でも問題はありませんよ、その分、ご主人がしっかりとフォローをしてあげればそれで十分です。ヒートは出産後、半年から一年……個人差はありますが、それくらいで再び始まりますので、その時にでも番われるといいですよ」
「あ……よかった。子供産んだらヒートってなくなっちゃうのかと……」
凪が胸を撫で下ろす側で、汐音はどこか浮かない顔で俯いている。
「何かわからないことがあれば遠慮なく……私でも看護師でも、話しやすいと思った人に聞いてね」
「…………はい」
いつもの汐音を思うと、まるで借りてきた猫のようにおとなしい返事だ。
「汐音? オレがいて聞きにくいのなら外に出てようか?」
「うぅん……ちが…………」
その様子は離れ離れになった子供の話をした時のものだと、凪は気づく。
汐音は、若いと言うだけでなく、相手に捨てられ、子供を抱くこともなく手放し、いつか子供が自分の描いた絵本を読んでくれると願って生きてきたような人間だった。
子供は、希望であると同時に絶望の象徴でもあるんだと、そっと手を握る。
冷たい指先は今にも震え出してしまいそうで、顔色も良くなかった。
「先生。オレが気をつけることとか、できることはありますか? 母子ともに健康に産まれてきて欲しいんで、やれることは全部やりたいんです」
汐音が怯えているのなら、自分がそれをフォローすればいいだけだと意気込む凪に、医師は柔らかく笑った。
帰り道に買ったベビー用品は大量で、ウサギのぬいぐるみが袋に入り切らずにぴょこりと顔を覗かせている。
その状態で、凪は目の前の住江教授に向かって深く頭を下げた。
「申し訳ございませんでした」
珍しくしっかりとした口調で謝る理由は、凪が住江教授を怒らせてしまったからだ。
「私からも謝罪します。申し訳ございません」
汐音が隣で頭を下げることに、住江教授は訝しんだ顔をしたけれど、特別講義にきた汐音が必ず凪の服を身につけていたことを思い出し、苛立たしさの持っていきようのないため息を吐く。
それから二人が左右に下げている荷物を見て、それがベビー用品だと言うことに気づき……
「き、君たち! まさかっ……」
「あの……今朝、気づきまして。市役所と産科に……いえ、だからと言って、搬入を忘れていたことの言い訳にならないのは重々承知です」
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