295 / 295
Aria of Echoes 53
『四年次の学科内展示』
人によっては卒業制作よりも重要だと言い切る展示会は、四年の前期に行われて内外の芸術に造詣の深い人間たちを招待する、学校としてはなかなかに大きな行事だった。
芸術に造詣の深い方々の中には、アニメスタジオや工房の代表なども含まれており、卒業後を見据えた青田買い的な場面でもある。
本来ならば参加を許されない凪が参加できたのは、住江教授の厚意と自慢に他ならない。
その凪が会場設営に現れなかった。作品は原則本人が持ち込みになっているだけに、凪の推薦者である住江教授は埋まらない壁にイライラとしながら何十回と凪に電話をかけ続けていたのだ。
けれど、肝心の本人たちは愛を睦ぐことに一生懸命で、その後は市役所、病院と慌ただしく移動。その後はベビー用品を買うために白熱の口論を繰り返し……
携帯電話を見たのは日が暮れてからだった。
「こんな大事な時期に……」
「創作に影響は出しません! なんなら、汐音……さんがいてくれているから筆のノリがいいくらいです! 今なら……何枚も傑作が描けそうです!」
意気込んで言う凪に住江教授は冷ややかな目を向ける。
それは、「ガキが何を言っているんだ」と言う呆れを含ませたものだった。
「彼のサポートは僕がします! 僕は人生の先達だし、彼を導くことが多少なりともできるはずです!」
身を乗り出しながら言われ、住江教授はうるさそうに顔を顰めて首を逸らした。
「ああ、もう。いい、情熱ってのは他の人間が悪口を吹き込むと余計に燃え上がるものなんだから」
反論というよりはぼやきに近い。
住江教授は荷物を覗き込み……「性別はどっち?」と尋ねかけてくる。
「性別は生まれるまで聞かないでおこうと思いまして」
「ああ、そう。でもαが欲しいなら出生前検査とかもあるよ? 君は一ノ瀬くんよりも随分年上なんだから、やっぱり跡取りを産んであげないと」
「ちょ……そこまで離れていませんよ。……ええっと、一回りくらい……」
「随分さばを読んだね」
「読んでないですよっ!」
力強く言い返したが、住江教授は聞いていないようだった。二人に向けて手を振ると、「守衛さんに連絡しておいてあげるから搬入してきなさい」と告げた。
もう叱る気がなくなったようだと見た二人は、住江教授に深く頭を下げてゼミ室を出ていく。
「思ったよりも怒られなかったな」
「あの先生、すごく丸くなってる」
「あれで?」
「あれでだよ。僕の時は体罰スレスレでやばかったよ」
手を絡めながら囁きながら歩くと軽い会話が繰り返され、体も一緒にふわりと持ち上がりそうだ。
ともだちにシェアしよう!

