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Aria of Echoes 55

 浮かれて飛ぶように動いていた足は止まり、気まずさに言葉が止まる。 「……僕が出てみようか?」 「いや、……」  凪は汐音に先に部屋に入っているように言い置いてから、途切れる気配もみせずに鳴り続ける携帯電話を見つめた。 「  はい、もしもし————」  通話ボタンを押した途端に聞こえてきたのは機械音声でも営業のためのトークでもなく……  凪は電話の向こうから聞こえる話の内容をうまく理解できずに繰り返し「え?」「え?」と聞き返す。辛抱強く話をしていてくれてはいた相手だったが、通話を切るころにはわずかな苛立ちを滲ませたような声音で「それではお待ちしています」ときつい口調になってしまっていた。  通話を終えた携帯電話の画面は暗転し、ぼんやりとした凪の顔を映す。  夜だと言うのにそれでもはっきりとわかるほど顔色を悪くした凪は、しばらくじっとしていたが弾かれるように部屋へと駆け込んでいった。 「汐音っ……オレ……」  子供の服を眺めていた汐音は凪の顔を見た途端、飛び上がって駆け寄ってくる。 「凪? どうしたの? 何かあった?」 「…………」  凪は答えないまま、クローゼットの方へと駆け寄り、ボストンバッグに手当たり次第に服を押し込み始めた。 「……凪? なぁくん?」 「あっ……その」  もう一度声をかけられて、凪は先ほどから汐音を無視していて、何も返事を返していないことに気づく。 「………………父さんと叔母さんが、亡くなったって」  どこか、今日の天気は晴れと言う口調に似たそれは、汐音の意識にもうまく入り込めなかったようだった。凪がそうしたように、「え?」と尋ね返し……慌てて凪の元へ駆け寄る。 「ど、どうして⁉︎ 何が……」 「事故。詳しいことは……なんだったかな……」  凪の手は荷造りしているように見えて、袋に入れたものを再び出したりとまともな動きをしていない。汐音は咄嗟にその手を握り締め、動かないように胸にぎゅっと抱え込んだ。 「凪! 落ち着け!」 「落ち着いてるっ!」  汐音に向けて怒鳴り返すなんてことは、普段では決して怒らないことだった。  けれど今の凪にはそれがわからない。  自分は落ち着いているし、実家に向かう準備も滞りなく行えているし、焦ってもいないと思っていた。  けれど……  瞳孔が開ききり、こちらを見ない様子は明らかに異常だ。 「僕を見て!」 「見てる! オレはあんたしか見えない!」 「 っ」  はっきりと言い返されて、汐音は少し顔を赤らめて怯む。 「少し……深呼吸しよ。ね? 今からタクシー呼ぶから、少しの間僕の前に座って、深呼吸して。お願い」    

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