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Aria of Echoes 56
祈るように凪を抱え込み、汐音は懸命に訴える。
「 っ、ん……ぅん、うん……」
いつもは華奢で折れてしまいそうだと感じる体を抱きしめ、凪は蹲るようにして頷いた。
慣れないネクタイの苦しさに耐えながら、次々に流れるように前を過ぎていく会社関係者の姿を眺める。凪は機械的に頭を下げてはいたが、対外的には弟が嫡男として通っているらしく、通り過ぎる人は母親にお悔やみの言葉をかけながらどこか胡乱な視線をしていた。
「だから、わざわざ葬儀に参加なんてしなくていいのに」
わざとらしく目元にハンカチを当てながら、母親は冷ややかな声で囁く。
「普段寄りつきもしないのに。親が亡くなった時だけ顔を見せるんだから、遺産でも期待したのかしら?」
「……法律に則るなら、オレにも権利がありますけどね」
「あなたっやっぱりお金目当てなのね⁉︎」
先に金の話を出したのはそっちだと言いたいのをグッと飲み込み、凪は葬儀場での言い争いを避けるために踵を返してその場を離れる。母親はまだ言いたそうにしていたが、状況を読んだのか凪の背中を睨みつけるだけだった。
入れ替わり立ち替わりする弔問客の間をすり抜け、粛々としていながらも騒がしい会場から距離をとる。
ぼんやりとその場所を眺める凪の顔に表情らしい表情はない。
「 …………凪」
ぽつ と呟くように名前を呼ばれ、凪はゆっくりと振り返る。その視線の先にいたのは、黒い服を身につけた汐音だった。
「きたんだ……無理しなくてもいいのに」
「無理は、してないよ」
凪の隣に立ち、その視線の先を一緒に見つめる。
大勢の人が出入りする会場の入り口は、鯨幕や花、提灯などで飾られ、二人の普段の生活では見ない光景を作り出していた。
「せめて、手を合わさせてもらえないかな?」
似合わない黒い服を着た汐音に緩く首を振ってみせる。
「 っ」
「違う。汐音を会わせられないんじゃなくて、今あそこにいくと何を言われるかわからないからだ」
「凪?」
「多分、心無いことを言われて傷つけられる」
「僕は、我慢できるよ!」
凪は母親との会話を思い出しながら、困ったように項垂れた。
「汐音だけじゃなくて、お腹の子に汚い言葉を聞かせたくないんだ」
そう言うと凪は汐音を抱き寄せ、頸に鼻先を埋める。そうするとどんなアロマオイルよりも心身をリラックスさせる香りが鼻腔をくすぐり、凪の肩の力を緩めさせた。
「 っ、ぅ……」
微かに漏れたのは嗚咽。
大きな体がぶるぶると震えて、手が縋り付くように汐音の腰を強く抱き寄せる。
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