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Aria of Echoes 58
「黙ってたこと……怒られるかなぁ」
呟き、凪の温もりの残るスーツに視線を落とす。まだ暑さは陰ることはなく、照り付ける太陽は健在な日中に着ていたそれは、重く濃密な凪の匂いを纏っている。
汗臭いと言ってしまえばそれでおしまいの代物だったが、汐音はそれを抱きしめてすん と鼻を鳴らす。
αやΩがフェロモンを嗅ぎ取ろうとして自然ととる行動だった。
「凪の匂いは……少し、癖があるんだよね」
けれどそれが妙に心を掴んで離さない。
むしろその癖が自分のためにあるような気がしてしまうほど、汐音はその匂いが好きだった。深く吸い込めばくらくらと酩酊するような幸福感に包まれて、自然と微笑みが溢れる。
「んっ……ぁ、ふゆちゃん、あんまり動かないで……」
凪のフェロモンで気持ちが昂ったからか、胎の中でふゆちゃんと胎児名をもらった子供が応えるように動く。
男型Ωは体の構造上、子供が育ち始めると前立腺を刺激しやすい位置に、子宮の代わりに胎宮がある。そこをぐりぐりと刺激するように動かれて、汐音は腰の奥から駆け上がってくる震えに堪えるように、顔を赤らめて顔を唇を噛み締めた。
「今は……まだダメなんだって……」
ビクビクと震える腰に抗えず、汐音はふらついてベッドに倒れ込む。
凪の匂いの残ったベッドに凪の服を持って倒れ込んだ汐音は、自分を補ってくれるような存在のフェロモンに包まれて、うっとりと目を閉じる。
「凪の匂い、大好き……なぁくんの、いっぱいいっぱい欲しい……」
あっと言う間に吹き飛びそうになった理性を押し除けるように、本能が這い出して汐音にもっと肺の奥までαの匂いを吸い込めとそそのかす。
皺になったスーツに顔を埋め、すん すん と鼻を鳴らすようにして息を吸い込むたびに、多幸感は増していく。
「————あ、また巣作りしてる」
凪がシャワーから出てきたのだと理解しているのに、汐音はスーツの匂いを嗅ぐことに夢中だった。
一心不乱に自分の匂いを嗅ぎ取り、それ身の回りを囲おうとする姿に、凪は胸がくすぐったくなる感覚にはにかむように笑った。
「ごめ……ごめんっなぁくん大変なのに……っとま 止まんなくって……」
「先生も、自然のことなんだから大丈夫って言ってただろ? ホテルで巣材が少ないのに、上手に巣作りしてるのすごい。誇らしい」
「っ……でも、僕もっと上手くできる……っ」
「知ってる。あれすっげー可愛いんだよ。今の姿も最高だし」
最高? とぽやんと呟く汐音を抱きしめ、凪は髪の水気も残ったままだと言うのにベッドへと倒れ込む。
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