301 / 303

Aria of Echoes 59

「うん。オレのこと、必死で求めるなって感じがして、嬉しくなる」 「ん……よかった」  凪に縋りつき、もじもじと膝を擦り合わせながら汐音は照れくさそうに頷く。 「する?」 「しない」 「なんで?」 「なぁくんの、話……っ、聞くから」  二人の体がピッタリと重なり合い、隙なく触れ合った部分から熱い体温が染み渡る。  落ち着くはずの体温が、今は毒のように汐音の肌を刺激して体の奥の熱を掻き立てていく。 「んー……汐音が可愛いから、オレの話は後にしよ?」  目元はまだ赤く、今日の話し合いで凪に何かあったのは確かだった。連日の精神的な疲労を労わるのは自分の役目だと意気込んでいただけに、汐音は肉体の欲と理性の間で苦しげに身を捩る。  凪が望んだように、凪の頭を優しく撫でながら今日の出来事を聞く予定だ。 「ゃだ……っ、ぁ、こら! だめ!」 「ダメ?」 「だめ、っ。ふゆちゃんも……だめ……っ、ぅ……」 「ふゆちゃん⁉︎」  突然子供の名前を出されて凪はパッと距離をとる。  まだ産まれてはいないけれど、子供の前で破廉恥なことはできない と慌てて背筋を伸ばす。 「ふゆちゃん? お父さんたちはその……えっと…………少し眠っててくれない、かなぁ?」 「ふふ。だめみたい、すごく動いてるから」 「え⁉︎ うご……動いてるのわかんのか⁉︎」 「! ……ぅん」  どうして教えなかったんだと叱られるかと身構える汐音をよそに、凪はサッと身を屈めると汐音の腹に頬を寄せた。  涙を隠した表情も汐音の欲情に反応した顔も引っ込めて、嬉しそうに笑う姿は子供の誕生を待つ親のそれだ。 「動いてる?」 「んー……ちょっと落ち着いた」  意地悪でもするように、凪が近づいた途端ふゆちゃんは動きを止めてしまった。しばらく様子を伺ってみたが、眠ったのか……それとも気分じゃないのかふゆちゃんは動かないままだった。 「オレ、すでに意地悪されてる⁉︎」 「タイミングだよっ散々動いた後だから……疲れて寝ちゃったんだと思う」 「……ホントに?」 「うん、ホント」 「じゃあ……今度動いたら、すぐに教えてくれる?」  凪は少し拗ねたように見える態度をとり、甘えるように汐音の服の裾を指先で引っ張る。  まるで子供のような様子に、ふゆちゃんが産まれたら子供が二人になるんじゃないだろうかと、汐音は苦笑をこぼす。 「もちろん教えるよ。だから、ふゆちゃんが起きる前に、凪の話を聞かせてくれない?」  そう言うと汐音は膝をポンポンと叩きながら凪を歓迎するために両腕を広げた。

ともだちにシェアしよう!