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Aria of Echoes 60
凪は抵抗することもなく素直に汐音の膝の上に頭を落ち着けると、汐音の香りを堪能するように肺の奥にまで空気が入るように深呼吸した。
そうすると目に見えて体の力が抜け、ずっしりとした重みが汐音の膝にかかる。
まだ濡れたままの前髪をそっと避けてやると、伏せられたまつ毛が影を落とし、クマの存在を際立たせた。
「今日も頑張ったねぇ」
「……うん。まぁ、黙って座ってただけだけど」
そう言う凪だけれど、汐音はそれだけで凪が泣いたりなんかしないとわかっていた。
「それで? 何があったの?」
「ぅんー…………」
凪は歯切れ悪くうなり、口を開かない。
話す気がないわけではなさそうだったが、だからと言ってなんと説明したらいいのか考えあぐねている、そんな雰囲気だった。
汐音は急かそうと思えばできた。急かして、問いただして、そうすれば凪は整ってはいなくとも汐音がわかるように説明はしてくれるだろう。
けれど、くたびれた凪をこれ以上追い詰めたくない汐音は、黙ったまま凪の髪を指先で梳き続ける。
気持ちがいいのかうっとりと目を閉じた凪がこのまま寝てしまっても構わない、そんな心持ちで辛抱強く待つ。
「オレさ、叔母さんの子供なんだって」
それは、目も口も閉じたままで、もう眠ってしまったかな? と汐音が思い始めた時だった。
「え⁉︎」
「叔母さん、未婚で子供ができて、親……オレの祖父さんに反対されて家を飛び出したんだって」
「え? え……叔母さんって、いつも電話かけてきてた人だよね?」
「うん。子供を産んで、でもお嬢さまだったから生活も育児もままならなくて、飛び出した時に持ち出した家の金も使い切っちゃって、結局実家に戻ってきたんだって。その時に抱えてたのがオレ」
唐突な告白に汐音の手が止まる。
凪はそれを咎めるように額を擦り寄せ、もっと撫でるように言外にねだった。
「未婚の娘が子供を産んだってのも体裁が悪いし、叔母は子供を育てるには幼過ぎたし、甲斐性もないしで……兄夫婦、つまりオレが父親だと思ってた奴が引き取って実子として育てたんだって」
「え……そ……んな……」
まるで映画の中の話のようだ と感想を言いそうになり、汐音は慌てて口を押さえる。
「親父に似てるし、弟とは誕生日が異常に近いし……親父が他で作った子供なんだと思ってたけど……」
父親と叔母は兄弟なのだから顔立ちは似ていた。
だから、父と子と言われて違和感がなかったのかと、凪はその納得をため息と共に吐き出す。
「だから、叔母さんのあの過干渉は……自分の子供が心配だったからだ」
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