303 / 303

Aria of Echoes 61

 全てのことに合点がいき、凪の視線はどこか遠くを見ているようだったが吹っ切れた清々しさを宿している。   「まぁ、だから、遺産を受け取る資格はないって言われてさ。あの人からしてみたら、全然関係のない子供を突然育てさせられたんだから、恨むのも当然だなって……すっきりしたのと……」  再び止まりかけた汐音の手を掴み、凪はそれが染み入る霊薬とでも言いたげに頬を擦り寄せて恭しく口付けた。   「あの時、叔母さんのかけてきた電話に出れば……よかったかな……って」 「っ!」 「きっと出ても、いつも通りの愚痴とか小言だっただろうなって思うんだけど。あれが最後だったのかって思うと……」  へへ と苦笑をこぼした凪が目を開くと、そこにはうっすらと水の膜が現れていた。  揺れながら室内の光を吸い取り、ゆっくりと決壊して目尻から流れ出す。汐音はそれを拭うこともできず、ただ黙って見守る。 「出てれば……また違ったかなって」  ほんのわずかなきっかけだけれど、もしかしたら事故を避けられた可能性があったかもしれない と、凪は知りようもないもう一つの未来を思い描いて後悔を呟く。 「オレの味方になってくれたり、学費だって出してくれてたり……してもらってたのに、ちゃんと話聞かなかったなぁとか、もっと感謝しておけばなぁとか、色々……ぐちゃぐちゃってなって…………」  話すうちに溢れる涙は数を増し、鼻先が赤くなって小刻みに震える。  凪が言葉を詰まらせ、弾かれるようにうずくまった背中に、汐音は何も言わずにそっと寄り添う。先ほどまでの恋人や親であろうとした仮面が剥がれてしまった下にあったのは、寄る辺なさに体を震わせる小さな子供だった。 「お……おかぁさん……だったのに……っ」  迷子のようなか細い声をあげ、凪は蹲る。 「っ……ぅ…………」    過ぎ去ったことに対して何もできることはないと痛感しながらも、それでも残る後悔に苛まれて…… 「……ご、め……」  謝罪を引き絞るようにして呟き、凪は汐音に縋る。  いつもは大人たり得ようとしている振る舞いが消え、嗚咽に肩を震わせる姿は年相応だった。 「凪……」 「……っ、親になるのにっ……これじゃ、ダメだって、わかってる……けど」 「うん、大丈夫だよ」  すがっていた手に力がこもり、汐音はその痛みに少し顔を顰めたけれど振り払うこともせずにじっと耐える。 「今は泣いていいんだよ、ふゆちゃんも寝ちゃってるし。僕しか見てないから……僕にも見られたくないなら、目を閉じておくよ」  そっと汐音の手が凪の背中に触れ、少し体温の低い手が上から下へと宥めるために動く。  

ともだちにシェアしよう!