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Aria of Echoes 62
「…………汐音は見てて」
鼻を啜る音に紛れて吐き出されたのは、弱っている自分を曝け出す言葉だった。
泣いて、惨めで、後悔しかない気持ちを抱えて今にも崩れそうな姿を見せるその行為は、汐音を信頼しきっているからこそできることだ。
汐音は胸の締め付けられるような痛みを感じながら、小さく「うん」と返す。
「ずっと見てるよ、ずっと傍にいるからね」
「…………傍じゃなくて、腕の中にいて」
拗ねた子供のように言うと、凪は汐音を力強く抱きしめた。
凪の首にネクタイを絞めながら、汐音は唇を尖らせたままだった。
「んな怒るなって」
「怒ってないよ。拗ねてるだけだもん」
「じゃあ拗ねるなって」
「…………拗ねるよ」
そう言いつつも手は澱みなくネクタイを絞め終わる。
「サクッともらえるもんだけもらって、帰ってくるから」
「だから、それで嫌な思いをするんじゃないかって心配してるの!」
「…………そりゃ、オレだって全部放棄で縁切ってって思ってたけど……」
凪はそう言いつつそっと汐音の腹部に視線を移す。
最初、凪は相続を全て放棄し、一ノ瀬の家とすっぱり縁を切る予定だったが、これから子供が産まれるなら金が必要なのだと言い出したのだ。
「君と子供くらい……養えるよ」
「できるかもしれないけど、汐音におんぶにだっこってわけにもいかないだろ? オレだってふゆちゃんの親なんだし……」
それでなくとも大学の費用は叔母の海乃が出していたのだから と、凪は唇をひん曲げる。
「僕は、君がヒモでもいいけどな」
「オレはやだ」
「僕のヒモはイヤ?」
「嫌じゃないけど、嫌」
汐音が結んでくれたネクタイに触れ、凪はにっこりと笑う。
「だって、汐音の前ではカッコいいアルファでいたいから」
ずっと傍にいる汐音でもはっと見惚れるような男らしい笑顔のまま、凪は颯爽と魔窟のように思える実家へと向かった。
父が死んだところで、家の外観の何かが変わると言うことはなく。
凪は馴染んでいるようで馴染まない実家を見上げて緩く首を振った。こんな状況なのだから、少しは今までと違った目で家を見ることができるかもしれないと期待したけれど、結局そこは凪の存在をあってないようにしか扱わなかった空間にしか過ぎない。
実家だと言うのに、凪はチャイムを押して中からの返事を待つ。
以前のように不審者扱いされないためでもあったが、凪自身がこことはもう関係ない立場なのだと線を引きたい気持ちからだった。
「…………」
インターフォンからの返事はない。
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