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Aria of Echoes 63

 盛りは過ぎたとはいえまだ夏の気配の濃い陽の光はきつく、門扉の前に立ち尽くす凪をジリジリと焼いていく。  「暑い」と言って踵を返してしまいたかったが、それはこの家の住人を喜ばせるだけなのだと、歯を食いしばりながらもう一度チャイムを押した。  それでも誰かが出てくることはなく……凪がその家に招き入れられたのは、一時間ほど経って弁護士がやってきた時だった。  幾度鳴らしても返事のなかったインターフォンが、弁護士が押した時だけ反応し、軽やかな母親の声が返ってきた。弁護士も赤い顔をして汗を流している凪を見て事情を察したのか、気まずい顔をしてペコペコと頭を下げる。 「私がもっと早くきてれば……」 「いえ……先生が悪いわけではありません。うちのゴタゴタに巻き込んでしまって申し訳ないです」  親族の諍いなどいつものことなのか、老齢の弁護士は苦笑いのような微かな哀れみの表情を浮かべながら、開かれた玄関へと入っていった。    母親と弟は完全に凪をいないものとして扱うようだった。弁護士が相続のことを話し始めても、自分たち二人で相続するのだと言う態度を崩さなかった。 「先生も分かるでしょう? この子はうちの子じゃありません」  かつては母と呼んでいた女は凪を一瞥もせず、冷たく言い放った。 「主人が勝手に連れてきただけです。血も繋がっていない、他人ですよ。他人に会社まで渡すなんて、おかしいじゃありませんか」 「そうですよ」    隣に座る弟も畳み掛ける。 「父さんが死んだんだから、会社も遺産も母さんと俺が継げばいい。他人は出ていけばそれで済む話です」  凪は黙って視線を落とした。  こんな言葉は繰り返し繰り返し何度も聞いてきた。今さら胸が痛むことはない が、ただ、父がいなくなった途端、遠慮すら捨てた二人に乾いた笑いが込み上げそうになる。  弁護士は一度だけ眼鏡を押し上げ、手元の書類を静かに開いた。 「お気持ちは理解できます。しかし、法律上のお話をいたします」  部屋の空気がぴんと張る。 「凪さんは戸籍上、故人の長男として記載されています。現時点で親子関係は有効に成立しておりますので、民法上は故人の子として法定相続人になります」 「そんなのおかしいでしょう!」  甲高い声をあげて母が机を叩いた。 「血が繋がってないんですよ!」 「血縁関係と法定相続人であることは、必ずしも一致しません」  弁護士の口調は少しも乱れない。 「法律は戸籍上の親子関係を前提として相続を定めています。戸籍上の親子関係が存続している以上、凪さんには相続権があります」 「でも、この子は主人の妹の子なんです!」

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