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Aria of Echoes 71

 「たから……」と呟き、汐音は恥ずかしがって曖昧な表情を作る。 「僕はそんなんじゃないよ」  声は弱々しく、今にも消え入りそうだ。 「汐音。オレは、絵を諦めるつもりはない、汐音との生活もそうだし、ふゆちゃんのこともそう。でも正直、それ以外のことってどうでもいいんだ」 「どうでも……いいの?」 「うん。オレは絵と汐音と子供がいれば他はなんだってよくて……今回、こうやって遺産のことに首を突っ込んでるのは、汐音一人に負担をかけたくなかったから」  大きな手で包み込むと、体温が移ったのか汐音の指先がほんの少しだけぬるむ。  凪はこの手をもっと温めることができないかと、手のひらでゆっくりと撫で続けた。 「実際、オレ……今は汐音のヒモだろ? 少しでも金……っていうか、資産? があれば、汐音に負担をかけなくて済むんじゃないかなって」 「僕は負担になんて思ってないよ?」 「でも、これから出産に育児に……それに仕事までして、絶対にしんどい!」 「っ! それは……」  それは大丈夫 と言いかけたが、自身に育児の経験がないことに口を塞がれる。  子供は産んだけれど、育てながら仕事をしたわけではない汐音は、凪に言い返すには自分の言葉は説得力が足りないことを痛感してしまう。  話で聞いたり、想像の上での育児はきっと実際のものよりも花が咲くように気楽なものだろう。 「お金の余裕があるだけで、気持ちって違うからさ。だから、会社を継げとか言われても全部断るって決めてるんだ」 「断る……」 「うん、色々調べて……」  そういうと凪は先ほどまでいじっていた携帯電話を取り出し、検索画面を見せる。 「検認って結構時間がかかるらしくて。その間、会社の後継者が宙ぶらりんって避けたいはずなんだ。だからそこそこの金をもらって、それで縁を切ろうと思ってるんだ」 「…………」 「な、なに?」 「そんな思うようにいく?」 「えっ……」  自分よりも人生経験のある汐音の言葉に、凪は自分の段取りは楽観的すぎるのだろうかとどきりと飛び上がった。  それ相応の金をもらって一ノ瀬の家と縁を切り、向こうは弟を後継者にできて万々歳、こちらは金が入って万々歳、それじゃあダメなんだろうかと凪は狼狽える。 「金で追い払えるなら、喜ぶだろうって思ったんだけど?」 「……ぅん…………僕にはなんとも……その人たちに会ったこともないし……」 「会わなくていいよ、不愉快になるだけだから」  バッサリと切り捨てる言葉に、汐音はまつ毛を震わせながら小さく頷く。  

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