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Aria of Echoes 74

 見間違えるはずもない。  毎日毎日見つめ続け、指先が覚えるほどに描いた顔だった。  ちょうど、この部屋に敷き詰められた絵のように…… 「…………いや、違う」  赤ん坊を抱える汐音の首には小さな楕円の傷が並んでおり、αだった父との番関係を表していた。 「違う」  凪は思考を一蹴する。自分が思い込みたいように進んでいた考えを無理やりに押し込め、もう一度食い入るように一枚の絵を睨みつけた。 「違う」  美しくなだらかに晒されるうなじについた噛み跡。 「違う!」  自分もそうした と、凪は膝から崩れ落ちながら思い出す。  四年次の学科内展示のために描き上げた一枚、その仕上げとして自分がしたことはなんだったか。自問自答の答えは分かりきっていた。  震えていうことを聞かない指先で絵の表面をなぞると、筆跡のざらりとした感触が伝わってくる。  それが、削るように心を軋ませた。 「……汐音」  絵の中の汐音はホテルを出る時に甘えて抱きついた汐音よりも随分幼い。けれど今にも消えてしまいそうな儚い線の細さや少し恥ずかしそうに微笑む様子はそのままで……  凪は頸の噛み跡の描かれた部分を忌々しげに爪を立ててひっかきながら、腕の中の子供に忌々しげに視線を移す。  どこにでもいそうな「赤ん坊」だ。  特徴がなさすぎるほど普遍的な、誰もが想像するような赤ん坊は、けれど……小さくぷっくりとした唇に目立たないように描かれたほくろは…… 「………………っ」  凪は自分の唇を引っ掻くように摘み上げ、汐音がチャームポイントだねと笑いながらつついていたほくろが消えないかと擦る。 「んなわけない。……そんなわけ、ない。ありえない、絶対に……絶対っ」  言い切ってはみたものの、凪の声は小さく弱々しくほんのわずかな振動で崩れ去ってしまいそうなほどだった。  飛びついてきた汐音を危ないからと嗜めようとする前に、汐音は鼻をすんすんと鳴らして不愉快そうに眉間に皺を寄せた。 「なに……この臭い……」  燻された臭いに、汐音は自然と距離をとる。 「なにしてきたの?」 「…………これは」  「すべてのあんたを葬ってきた」という言葉を飲み込み、凪はコミカルに見えるように大袈裟に肩をすくめて「仕返し」と返す。 「仕返し?」 「うん。昔、オレの絵を焼かれた仕返しをしてきた」 「…………それって、絵を焼いた?」  汐音は怯えるように言い、凪の手に恐怖を感じたのか後ずさる。  絵を生業にしているものにとって、それがどれほどの暴挙かを…… 「服を何枚か焼いてきた。やっと溜飲が下がった気がする」  

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