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Aria of Echoes 75

 凪は父親の服に何枚かの服を詰め込み、風船に顔を描いてものを盛大に燃やしてやった! とケラケラと明るく、冗談でも言うように語り続ける。  汐音はそのことに曖昧な表情をしていたけれど、凪が晴々とした顔で冗談めかして自分を笑わせるような言葉を使って大袈裟に言うものだから、次第に苦笑を漏らし……いたずらっ子のような表情を作られた時にはくすくすと笑ってしまっていた。 「どうせ片付けなきゃいけないものだったし、有効利用ってやつ」 「もう! 罰当たり!」  ちょっと唇を突き出して怒るそぶりをする汐音に、凪はヘラリとした笑顔を返す。  …………ホント、罰だ。 「…………」  凪は未だに脳裏にこびりついた燃やされて縮みながら黒く爛れて灰になっていく塊を思い出していた。  きっとこれが一番最初に描かれた汐音。  その次がこれ。  その次が……  キャンバス裏の日付を見るまでもなかった。ぎこちない筆使いがやがて滑らかに、そして大胆になり、絵の中の汐音の表情もこわばったものから段々と自然な笑顔に変わっていった。  それを辿れば、汐音がどの段階で捨てられたのか、理解するのも簡単だった。  ある絵から汐音の成長が止まり、瞳がどこか物憂げになる。  これは絵のモデルが成長しなくなったからで、二人の仲が裂けた証拠でもあった。  父親が描いた汐音の絵は、別れてからの方が量が多かった。まるで薄れゆく記憶を懸命に繋ぎ止め、その中でだけでも番であろうとするように、繰り返し繰り返しなぞられた輪郭は数十枚にも及んだ。  ————凪は、それを遺産破棄の条件に付け加えた。 「この家にある絵画を全て譲ってくれるなら、手切れ金を少し負けてあげてもいいですよ?」  「は?」と言いつつも母の眼孔は貪欲にリビングに飾られた絵画に注がれていた。  夕暮れの街角だかの建築物は崩壊を始めている。幽玄の光画家と呼ばれたジュリアン・ヴァレリウスらしい印象派と幻想表現の融合を表したような素晴らしい作品…………だが、母親はそれが贋作だと知っている。  けれどあえて胸をつんと張り、慌てる様子でその絵の前に立ちはだかってみせた。 「こ、これ……これは駄目よ⁉︎ そんな簡単に扱っていい絵じゃないの! それに……主人も気に入っていて……」  チラチラ と弁護士の方に視線を送る母の考えが、凪には手に取るようにわかる。  主人の思い出の品の価値のある絵画を持っていくのなら、手切れ金をもっと減額しろ と言いたいんだろう。 「貴重なものだし、そんな簡単にはいそうですかって渡すわけにはぁ」

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