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Aria of Echoes 77

 元々を正せばこの人はただの被害者なのだから と、凪は父親のことを思い出して拳に力を入れた。  すべての元凶は、さまざまな人間を不幸に巻き込みながら一番にこの世を去った父に他ならない。 「憎むなら、父さんを憎むことです」  地を這いずるような恨みの視線を受けながら、凪はポツリとそれだけを返した。  遺伝子検査の結果も、あの部屋にあったすべての絵も燃やし尽くした。隠し部屋の中に徹底して閉じ込められていた秘密はすべて凪以外の誰に知られるともなく消え去ってしまった。 「証拠も…………秘密を知っている人間も、消えた」  父親が亡くなり、叔母も亡くなった。  汐音は子供を探す気はない。  一ノ瀬家と縁が切れた以上、父の旧姓について知る機会もない。  すべて処分してしまった今、凪と汐音を繋ぐものは何もなかった。  ————すべては、闇の中だ。 「オレさえ口をつぐ  」  ぷちんと爪を弾きながら呟いた言葉は、悲鳴によってかき消されて誰に訊かれることのないままに終わる。  まるで車に轢かれた人間が出すような、体が引き裂かれたのではと思わせるほどの鋭さを持った声に、凪は椅子を蹴って立ち上がった。  思わず扉に駆け寄ったものの、男型Ωの出産は急変することが多く、立ち会いを拒否されているために中に入るどころか戸を開くことすら叶わない。 「……汐音…………」  縋りついた扉のひんやりとした感触と、その向こうで断続的に続いている呻き声、そして時折上がる悲鳴。  それが汐音が子を産むために苦しんでいる姿だった。 「…………」  自分の子供を産むために、汐音が苦しんでいる。  その事実に凪は今まで感じたことのないほどの怒りを感じてしまった。汐音の腹の中で順調に育ち、凪自身も慈しんでいた存在であるというのに、汐音を苦しめる存在だとおい部分だけで、凪はその存在に怒りを向けた。  なぜ?  あれほど愛しい親を苦しませるのか。  どうして自分の最愛の人間に苦痛を与えているのか。  「ふゆちゃん」と胎児名をつけて二人で楽しみだと言いながら待ち望んでいたというのに……  ——————————————!  凪の意識が昏いナニかに飲まれようとした瞬間、弾かれたような泣き声が上がった。 「ぇ……」  扉の向こうでわっと声が上がり、「産まれましたよ」と助産師が声をかけるのが板越しに聞こえてくる。凪はそれをもっとよく聞き取ろうとして扉に耳を当て、黒いものを吐き出すかのように大きく息を吐いた。  自分の兄弟であり子供が生まれたのだと、凪は急乱下しては急上昇する気持ちを宥めるように無理矢理に笑顔を作る。  親がどうであれ、  子供がどうであれ、  子供が産まれようと、  親が死のうと、 「オレと汐音を分つことはあり得ない」  あり得ないのだから。 END.

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