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雪虫6 10

「う、あ、うん、これ、これ! すごくよく似合ってて、それを着てると可愛いなって思う!」 「着てないとかわいくない?」 「めちゃくちゃ可愛いに決まってる!」  食い気味に言うと、んふふーと笑い声が耳をくすぐる。  雪虫はオレの背中に飛びついたまま、パタパタと泳ぐように足を振ってご機嫌だ。その度にふわふわと揺れた髪から柔らかな匂いが鼻先をくすぐって……  オレはいつも雪虫を天使のようだ と表現するのだけれど、今回ばかりは悪魔も裸足で逃げ出すんじゃないかってほどで……オレはどんどんとすり減っていく理性を励ますしかできなかった。  ぐるんと回る大地と空の間で、大神は一体オレをどうしたいんだろう? と一瞬だけ考えた。  頭で考えるよりも体が先に受け身を取ってくれるようになったのはいいことなのか悪いことなのか、正直、オレにはわからない。 「いてっ」 「はい、まだまだだね」  オレを助け起こしてくれるだけ、直江は優しんだろう。これが大神や水谷だとトドメを刺しにくる! 「や……十分じゃないです?」  スーツの上からでも鍛え上げられたとわかる肉体を持つ直江と格闘訓練をして2分ほど粘ったんだから、オレにしては及第点だ。 「まだまだ、頑張ってよ」  αじゃないかってくらい整った顔で直江は笑うと、オレの返事を待たずに拳を握る。繰り出される攻撃をギリギリで避けながら……やっぱりこの人も優しくないと小さく呻く。 「オレっなにっさせられて、るんですかね?」 「そうだなぁ」  懸命に直江の拳や足蹴りを捌くオレに呑気な声が返されて、必死に食らいついて行っているオレと違って直江は片手間なんだなって思わせる。 「できないよりはできる方がいいってやつじゃない?」 「えっ⁉︎」  そんな曖昧なことで、オレは殴られたり蹴られたりしてるの⁉︎ 「実際、雪虫は誘拐されたんだからさ」 「…………まぁ」  あの時のオレは、何もできなかった。いや、自分の手で雪虫を取り返せたことはわかっているが……でも、それだけじゃない。たまたま殺されなかっただけって言うのと…… 「…………直江さん」 「うん?」  オレの声音に神妙さを感じたのか、直江は手を止めてくれた。 「雪虫は……」  この先はうまく言葉を繋ぐことができなかった。城址跡にあった地下通路で逃げ惑っている時に、雪虫のとった行動がずっと引っかかっていて、誰かに相談して答えを聞きたかった。 「雪虫の素性を教えてもらえませんか?」  色素がなくて、体が弱くて、軟禁をされていたけれど、本人の希望で研究所の外に住んでいた。オレが知っているのはそれくらいだ。

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