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雪虫6 18
いや、あの人はそんな失敗はしない。
βだけど、αのオレよりもαらしい完璧な仕事ぶりだった直江がそんな簡単なミスをするはずがなかった。
「………………」
じゃあ? 直江は一体、誰のデータを?
「誰のが持ち出されたんだ? ってか、持ち出されて……それだけなんだろ?」
「うぅん」
「 っ」
そのまま持ち出したということは、雪虫のものと間違えた なんて話じゃないってことだ。
腹の奥がぐるぐると蠢いて、気持ちの悪さが迫り上がってくるのを押さえつけるように唾を飲み込む。
「直江さんはそんなことをする人じゃないって……っ、きっと、おっさんだ! おっさんが持ってこいって……言ったんだ……」
反論した言葉に力がないのはうただけじゃなく、自分自身でもわかっていた。
大神が知りたいことがあれば正々堂々と瀬能と話し合えばいいだけの話で、こんな騒動を起こすよりもよほど簡単だ。
「…………持ち出されたのは、大神のデータよ」
「そんなの嘘だ!」
傍で見ていてわかる。
直江は大神に対して、どうして? と思わせるほど従順だった。大神だって、直江が軽口を叩くのを、しょうがないやつとでも言いたげに、咎めもせずに聞いて……
二人の間にある空気は、そんな危うげなものではなかった。
「……」
うたはオレの否定を拒絶せず、けれど肯定もできないままじっと黙っている。
直江が大神のデータを盗んだのは紛れもない事実だけれど、信じたくない そんな気持ちがひしひしと伝わってきて……
「………………じゃあ」
うたの言葉を聞いて、オレの中に出来上がった言葉が口を突いて出そうになった。
飲み込んではみたものの、それはどろりとしてめまいを引き起こす。
「……オレ……囮にされた?」
心の中に浮かんだのはもっと汚い言葉だったけれど、オレを覗き込むうたの心配そうな瞳になんとかそれを堪える。
直江は、オレで騒動を引き起こして、その間に大神のデータを持ち出した?
繰り返してみても、どうにも現実感のない言葉だった。
「瀬能先生が戻られたら、もう少し詳しく聞けると思うから……どうする? それまで雪虫のところにいる?」
昨日の、突然手錠をかけられた時に感じた足元の抜けるような怖さじゃなくて、胸がぽっかりと開くような空虚さに苛まれてオレはすぐに返事ができない。
「……今日は、部屋から出るのが制限されてるから。会いに行ってあげて」
うたはきっと、オレ以上に今のオレの状態がわかっているのかもしれない。自発的じゃなく、うたに行くようにと指示されてやっと体が動き出す。
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