346 / 354

雪虫6 23

「嬉しいけどっ嬉しいけどっ嬉しいんだけど!」  何度言っても、雪虫に誘われたことに対する幸福を伝えきれないのがもどかしい。  オレはいつだって雪虫と触れ合えるなら嬉しいけれど、でも……雪虫の体はそうじゃない。そっと盗み見るように視線を動かした下腹部は、オレのとは違って可愛らしいままだ。  幾ら心でセックスしたいと望んでくれていたとしても、雪虫の体はそれについていかない。  フェロモンが薄いってことは、そういうことだ。   「オレだってっ雪虫としたいけどっ」 「じゃあ。しよう」 「しようじゃない! しない!」 「だいじょうぶ」 「大丈夫じゃない」  前屈みになりながら必死に我慢してるオレの苦労なんて露ほども感じてない声で返し、雪虫は頬をぷっくりと膨らませる。 「だいじょうぶなのに」 「その自信ってどこからくんの?」  下半身に血が集まりすぎてるからかクラクラする頭では考えつかなくて、懇願するように尋ねかけると、蒼い両目が煌めくように瞬く。  吸い込まれるような青の世界を見つめていると、それだけでもう何もかもどうでもいいやってなってくるから不思議だ。 「だいじょうぶだからだよ!」  いたずらっ子のように笑われた瞬間、悲鳴を訴えている自分の息子のことなんてもう気にする必要もなくなっていた。  見た目は赤いシリコンの袋のようだけれど、これは特別な袋なのだと瀬能はオレに教えてくれた。  なんでも瀬能が開発したフェロモンを漏らさないための袋らしく、研究所内で持ち歩くとまずいもの……つまり、αのフェロモンがたっぷりついたものを入れるためのものだった。  中に汚れた服を入れて専用のクリップで封をして、周りを水で洗えばオレの鼻でもフェロモンがわからなくなる。 「スッゲーな」  自分の粗相を隠すような気持ちになるから気分は良くないけれど、雪虫と濃厚な時間が過ごせたんだからお釣りが来る。  あの後、繰り返しキスをして雪虫が満足してくれたからいいんだ…… 「いいんだ……別に……」  今日の姿を思い返すだけで、自家発電も捗るというものだし。  とりあえず雪虫が寝てしまったから、もう一度瀬能の部屋に行ってみるかと部屋を出る。 「————ああ、しずるくん」  「ピャ」って声が上がりそうになったのを堪える。  恐る恐る後ろを振り返ると、瀬能が廊下の向こうから歩いてきているのが見えた。  研究所に入る際に手首に付けられたタグは、オレの心拍数の変化や体温等、細かな変化を瀬能に送る機能もある。  ってことは、オレが興奮して粗相しちゃったことも、瀬能には筒抜けているってことで……

ともだちにシェアしよう!