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雪虫6 29

 空に落ちる。  そう思った次の瞬間に、柔らかな感触が唇の端に押し付けられた。 「ふぁ……」  間抜けに言葉が溢れた口に、再び柔らかい雪虫の唇が押しつけられる。  今度はちゃんと正面からしっかりとキスをされて、軽い体がのしかかるように膝の上に乗り上げて…… 「ゆき……」 「ちゅー、いや?」 「やじゃない」  ちょっと食い気味に返してしまったことをかっこ悪いなって思いつつ、こんなラッキーを逃すわけがない。  柔らかい雪虫の唇はどうしてこんなに甘く感じるんだろうっていつも不思議だ。瀬能に言わせると、雪虫が甘くいい匂いなのは雪虫が「運命の番」故の本能だからだと言われたけれど……それだけでこんなに甘く感じて、眩暈がするほどいい匂いがして、触れると多幸感に襲われるものなのだろうか?  今ならなんでもできそうな、そんな万能感すらある。  雪虫を求めるのが本能だとして、これがそれだけで説明できるのか? 「じゃあもっと、ちゅーするからそばにいて」  ちょっとあざとく頬を膨らませて上目遣いでそんなことを言われると、はいって言ってしまいたくなる。 「ぅ……ごめん……」 「もうちゅーできないかもしれないのに?」 「えっ⁉︎ できないの⁉︎」 「? できないの?」  尋ねたことをそのまま尋ね返されて、思わず脱力してしまう。  雪虫はセキに吹き込まれたことをそのままなぞっているだけなんだなってわかっているから、セキに対して「いい加減にしろよ」って怒りも湧いてくる。  αのファロモン香水の件もそうだったけれど、雪虫に変なことを教えないで欲しい。  最近はセキだけじゃなくて、研究所にいるΩたちと交流ができてきて、そこからの入れ知恵も幾つかあるようで…… 「ちゅーはできるけど、仕事には行かなきゃ……」  世のαは働きながらΩとどうやって過ごしているんだろうか? 仕事に訓練に勉強に畑仕事に、何より大事な雪虫の世話に……正直、時間が全然足りない! 「ぁ……ん、わかった」  全然わかってないのに、雪虫はぽつんとそう返してくれた。  その表情はオレの胸を傷つけるのに十分だ。雪虫がここにいて、オレが研究所に出入りするためには役に立たなきゃならない。でもそれで雪虫を悲しませるのは、本末転倒すぎて頭を抱えたくなる。 「ごめんな?」 「…………ん」  もう一度ちゅって口付けて立ちあがろうとすると、細い指がオレの服をぎゅっと掴んだ。  無理やり引っ張ると爪が剥がれてしまうんじゃないかって恐ろしさでまごついていると、唇をぺろりと舐める感触がした。

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