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雪虫6 32
自虐ではなかったが、瀬能が変な顔をしたから自虐だと思われたのかもしれない。
「……まぁいいか。今はそっちに構っている余裕もないからね」
「えぇ……ひどい」
そう言いながらネクタイを結ぶ。
オレのスーツ姿を見て、瀬能はわずかに眉をしかめた。しまったなって表情をされてしまい、慌ててどこかおかしいところがあるかと見回す。
「髪も切りに行かせればよかったかな」
「すみません」
「今更しょうがない。とりあえず行こうか」
不服さを隠しもしないまま、瀬能は駐車場に向かって車に乗り込む。いつもは嫌味なのか冗談なのかわからないようなセリフを一つは言ってくるのに、今回はそれすらなかった。
それは、それだけ瀬能の緊張を表しているんだろうけど、一緒の車に乗る方の身としては気まずくてしょうがない。
「そう言えば、セキがおっさんのネクタイを被ってたんですけど、来てたんですか?」
「大神くん? うん、まめに顔を出してるよ。セキくんがいるからね」
ってことは、オレとタイミングが合わなかっただけってことだ。
まぁ、会いたいわけでもないけど。
「あいつ、まーた変なことを雪虫に吹き込んでたんですよ。どうにかならないんですか?」
「……オメガたちがアルファを繋ぎ止めるために、情報を交換するのは本能だよ。諦めるしかないね」
運転をしながらだからか、それとも今まで散々オレが苦情を訴えてきたせいか、返事はどこか上の空だ。
「おかげで、またパーカーがなくなりました」
「はは。雪虫の服より君の服の方が多いんじゃない?」
まさにその通りで、一度雪虫に献上すると匂いが薄れるまで返してもらえない。故にずっと溜め込まれていって、オレはどんどんと服がなくなっている状態だった。
できるだけ貯金もしたいオレとしては、着る服がなくなるのは結構な痛手であって……でもオレの服を握りしめて雪虫が嬉しそうにしてくれるから、返してと強くいうこともできない。
最終的に、雪虫が幸せそうならいっか で、話は終わるんだけど。
「まぁオメガは、番相手のフェロモンで他のアルファから身を守ろうとするからね、仕方ないね」
諦めるしかない、仕方ない。
ぼんやりと繰り返す言葉は瀬能の本音じゃないのかと、さらに気まずい思いをしながらモゾモゾと座り直す。
「そういうもんですか」
「セキくんには大神くんがフェロモンをベッタリつけてて痛いって前に言ってただろ」
「はい、そういうのがあると、自然と近づきたくなくなるっていうか……『あ、縄張りなんだな』ってわかるんで、相手が強いと無用な争いは避けたくなります」
「本当にマーキングなんだね」
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