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雪虫6 34

 瀬能が先に歩き出して……オレはと言うと立ちすくんだ。瀬能の向こうから漂ってくる? 感じる? 気配のおかしさに、本能の何かが反応した。  フェロモンのようなものじゃないことだけはわかる。  そんなものじゃない。  むしろ匂いで言うなら何も感じない…… 「 ——お久しぶりです」  柔らかな声は張りがあり艶やかな美しいものだ。  それを聞いて、この気配が何か気づく。  華やかさだ。  存在感が放つ華。  そろりそろりと視線を上げていくと、シンプルなつま先が見えた。真珠色の普通のハイヒール。 「…………」  なのにそれがとてつもなく美しく見えた。細く形のいい脚が履いているからだけじゃないと、オレは視線をゆっくりと上げながら痛感する。  彼女が来ているのは極々シンプルなスーツだった。派手な色でもないし、ピカピカと光っているわけでもない。なのにそれがたまらなく華やかに美しい。  まるでガラスでできた100本の薔薇の花束のような…… 「……阿川くん」 「えっ」  苗字を呼ばれて飛び上がった。普段下の名前で呼ばれているせいで、瀬能に呼ばれた名前が自分の名前じゃないように感じた。 「挨拶を」 「あっえっ……と、はじめまし…………あ、警察のお姉さん!」 「こらっ」  思わず漏れた言葉を瀬能に咎められて、オレは叱られた犬のようにぎゅっと身を縮める。  でも、ゆっくりと見直して目の前の女性が以前に会ったことがあるのに気づく。いや……会ったと言っても言葉らしい言葉を交わしたわけでもなかったし、オレ自身はそれどころじゃなかったんだけども。 「あ……でも、警察に捕まった時に傍にいた人で……」  慌てて瀬能に説明しようとすると、くすくすと可愛らしい笑い声が聞こえてくる。  その何気ない動きですら、華やかだ。  普段、大人だな、洗練されてるな、と思って見ることのある瀬能ですら、彼女の前では野暮ったく思える。  存在そのものが女王なのだと物語る彼女を前に、自然と頬が赤くなってしまう。 「その……その節は、お世話になりました。ご迷惑を……おかけして、申し訳ありません」   急に自分の身なりが気になって、ついスーツを握りしめながらしどろもどろに言う。簡単な言葉だし、瀬能相手になら幾らでもするすると言える言葉なのに、どうしてだか一声ごとに汗が吹き出して、恥ずかしくなってくる。  大神から感じるプレッシャーとはまた違う次元の…… 「あの時はびっくりしたでしょう、もう落ち着いた?」  自分にかけられた言葉は、考えていた言葉よりももっと親身で柔らかい。

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