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雪虫6 35
「は……はい……もう、大丈夫、です」
なぜだか嬉しくて、声をかけられたことに飛び上がりたくなるような衝動に駆られる。
美人か美人じゃないかと言われたら確かになかな見ない美人だし、長く後ろに垂らされた髪も艶めいて、長い手足もまるでモデルのようで……それでも、雪虫と比べたら断然雪虫の方が可愛いし綺麗だって言える! ……のに、微笑みかけられると有頂天になってしまいそうになる。
これは……例えるなら、忠誠心……のような?
「??」
ほぼ初対面の、言葉もろくに交わしてないような相手に抱くにはありえない感情に、一人で疑問に思って一人で勝手に戸惑って……
「風水みやこです」
「ぁっあっ……阿川しずる、です」
飛び上がりそうなったのを精一杯の力で押さえつけながら名前を言い、キャパオーバーになってしまいそうになって慌てて瀬能を見る。
助けて ではないけれど、ここからどうしていいのかわからなかったから。
「彼には、私の助手として働いてもらっています」
「ええ。大神から聞いています」
穏やかに微笑みながら頷く様は決して威丈高はないのに、有無を言わせない圧迫感に思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「先生が緊張されていては阿川くんも緊張してしまいますよ。こちらへ」
ソファーに座るように身振りで促されて……オレは自分の判断じゃなくて瀬能の動きを待ってから隣に浅く腰掛けた。
柔らかな感触に転がり落ちるんじゃないかって思ったけれど、そこは鍛えた体幹でグッと堪える。
秘書らしき女性がそれぞれの前にコーヒーを出してくれたけれど、手を伸ばしていいのか悪いことなのか、それすらもわからないままに拳を膝の上に乗せてじっと息を詰める。
「今回の件について、説明をお願いします」
コーヒーを出し終わった秘書が退出して、部屋に3人きりになってやっと口を開いた彼女は、相変わらず凪いだ湖面のような雰囲気だと言うのに、ピリッと空気が引き締まったのを感じた。
「……研究所での先週、タグ異常を知らせる警報が鳴りました。研究所の第三データ保管室より、大神慧氏の医療を含む個人データが持ち出されました。侵入者でありデータを持ち出した犯人は物理的な破壊を行っておらず、セキュリティシステムは正常に作動していました」
「…………」
「彼が持ち出しに成功したのは、阿川くんが起こした保管室前での不審行動により、タグのシステムの再同期にわずかなラグがあったためです」
「…………」
「このわずかなラグを使い、第三データ保管室から大神氏のデータを持ち出したことが判明しました。今はその対策を取り、ラグが出ることはありません」
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