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雪虫6 36
彼女はただ静かに優雅にソファーに座って瀬能の報告を聞いているだけだ。
なのにオレの拳の中は汗でぐっしょりで、報告している瀬能もどこか御しきれない焦りの感情を滲ませている。
「犯人の身柄は?」
「大神の預かりとなっています」
「なぜ?」
瀬能は気まずそうに一瞬彼女から視線を外し、再び真っ直ぐに見据えた。
「彼が、大神の秘書でしたので……」
「だから?」
だから? に込められた言葉の意味をオレはわからなくて、そろりと二人の顔を交互に見るしかない。
盗まれたのは大神のデータで、盗んだのは大神の秘書……というか、直江で、その直江は今、大神が預かっている。
このやりとりに含まれる事柄を懸命に探そうとして、答えは意外と単純なことに気がついた。
「……おっさんが、グルだって思われてる?」
慌てて「んですか?」って付け加えたけれど、おっさんの部分は訂正のしようがなかった。二人の視線がオレに向いて、吹き出すように冷や汗が流れ始める。
「す、すみ すみませんっ」
慌てて拳を置いた膝に視線を戻しても、二人がこちらを見ているのが気配でわかってしまって……冷や汗は止まらない。
「そのことについては、風水の特別監査が出向いています」
「それは……そこまで大事にするなんて……っ、彼が持ち出したのは大神のデータだけです。しかもそれは第三データ保管室からです、これは……」
「だから、です」
「彼は第三データ保管室がどう言う場所か知っていました。それを承知で犯行に及んだのです」
彼女の長いまつ毛が震えて、ゆっくりと持ち上がる。
αのフェロモンが出ているわけでもないのに、そのわずかな動きにビクついて息を詰めてしまっていた。
「ですから……彼には、…………」
「それでも、結論は出さなくてはなりません。大神に伝えてください、これ以上の庇いだては無用だと」
頭の先からつま先まで、彼女は相変わらず優雅で美しい。
けれどそれは傷ひとつないガラスの表面のようで、どこにも引っかかりを見つけられない鉄壁の拒絶のようだと、黙り込んでしまった瀬能の横顔を盗み見ながら思う。
「報告をありがとうございます。けれど結果は変わりません」
言葉は硬く、これで話はおしまいだと言っている。
これは……直江が犯人で決定ってことで、警察に突き出すってことなんだろうか?
先日のオレのように、手錠をかけられて取り調べ室で同じ質問を繰り返されて、心細くて不安でどうしらいいのかわからなくて、でも誰も助けてはくれなくて……
あの心細さを思い出して、オレはぎゅっと手に力を込めた。
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