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雪虫6 41
「意外とこだわりのない人だから、大神の身だしなみは君にかかっているからね。もしコーディネートに迷ったら、テーラーに問い合わせて。そこの式部さんって人が相談に乗ってくれるから、この人はずっと大神さんの服を仕立てている人で…………」
「ちょ、ちょっと待って! 待って! なんてオレがそんなことを 」
さっき、直江の様子を気の抜けたなんて形容したけれどそうじゃないことに気がついた。
目の前に立つこの人間は、覚悟が決まった表情をしていて……
「そんな引き継ぎみたいなことするより、早く傷を治して復帰した方がいいって!」
「これは引き継ぎだから。君がきてくれて本当によかった。他の人ならこれだけの情報をすぐには覚えられないから、業務に支障が出たかもしれない」
業務?
支障?
この人は、何を言ってるんだ?
「だから、そんなの自分ですればいい話なんだからっ!」
「俺はもう携われないから、引き継ぐんだよ」
「…………」
「幸い、大神さんは引き継ぎ書を作る時間を作ってくださった」
気づけば、握り込まれた手には震えるほど強い力が込められていて……まるで、一生に一度の祈りを捧げる殉教者のようだった。
「………………クビって……ことですか?」
オレがその言葉を選んだのは、希望が欲しかったからだ。
「うん、そうだね」
軽やかな返事はそれだけで嘘だとわかるほど不自然だった。
それを感じてオレの眉間にみるみる皺が寄っていくから……直江はおどけるように肩をすくめる。
「この部屋の役割を、俺はよく知っている」
「部屋?」
ただの宿泊施設……じゃ、ダメなんだろうか? そりゃ、地下に廊下に扉の前に、黒服の皆さんがいたけれど、それはこの前、瀬能に連れて行かれた高級ホテルだって一緒だ。
「ここは、手紙を書くために用意される場所なんだよ」
「手紙……」
誰宛の?
どんな内容の?
それを尋ねてしまうと、オレは耐えられない気がした。
「引き継ぎ用のだよ」
「あ、ああ、うん。書いてますもんね」
「じゃあ、ちょっと説明していくから聞いててくれる?」
いやだ という声は喉に張り付いて出てこなかった。もし、オレがその願いを断ったとしたら? 直江はどれほどの無念を抱えるのか……
「スケジュールは一日のものと一週間のもの、それから月と年で分けて説明を書いたけれど、予定によっては参考にならないこともあるから都度柔軟に対応して。気をつけなければならないのは予定被りと移動時間の確保だ。会食以外の食事の時間は考えなくてもいいけれど、その分、軽食を用意するようにしてね」
直江の説明は滑らかで滞りない。
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