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雪虫6 42

「あの……あの……オレ……」  オレは、これを最後まで聞いていいのだろうか?  聞いた後、直江は? 「それから、こっちはセーフティルームについてだけど  」 「オレっ……覚えられないです! こんなにいっぱい、急に言われても無理です!」 「…………君なら、できるだろ?」  ……できるできないで言うなら、覚えることだけなら簡単だ。  でもオレはこの瞬間の感情も一緒に覚えてしまうから……いつまでも色褪せないまま、一生この瞬間を後悔しながら生きることになる。 「なんでっ……なんであんなことしたんですか!」  そもそも、直江が大神を裏切らなければこんなことになならなくて、利用されたオレが尻拭いしなきゃならなくなったりお人よしなんて言われたりすることもなかった。 「うーん」  わざとらしい唸り声はオレをどう説得しようか考えているんだと思う。  オレを丸め込んで、引き継ぎをして……引き継ぎが終わったら? 「自分で選んだからかな」 「選んだって……裏切ることを?」  直江が「うん」と返事をしたのは、長い沈黙の後だった。 「人って、生きていると選ばなきゃならない時って出てくるだろ? 俺の人生って、案外そういう機会がなかったんだ。だからこれは、俺が自分で選んだ結果なんだよ」  直江は紙の束をオレに押し付けると、くたびれたとでも言うようにベッドへよろけるように腰を下ろした。  出会った時は大きくて強くて……アイロンを当てたハンカチのようなイメージの直江が、小さくしょぼくれた犬のようだ。 「流石に全部の取引先の連絡先までは覚えてないから、そこは大神さんから俺の携帯電話をもらってくれる? じゃ、そろそろ大神さんの忍耐が切れる頃だから」  バイバイと胸元で直江が手を振ったと同時に、部屋のドアがけたたましく鳴らされ、「いい加減に出てこい」と低い声が告げる。  少しイラついたような大神の声に、直江が「ね?」と苦笑した。 「そ……それでっ……よかったのか⁉︎ あんたの選んだそれは、おっさんを裏切っても納得できるものだったのか⁉︎ もっと他にやりようとか、もっといい方法とか、もっと……」 「俺は天秤にかけて選んだ。君もこれからそんな瞬間が出てくると思う。……いや、雪虫のことでもう色々選び取ってるか」  一際大きなドンという音に、直江は肩をすくめる。 「ほら行って」  押し出されたわけでも、大神の催促に屈したわけでもないけれど、これ以上ここにいたとしても何も変えることができないという諦めに苛まれて、オレはぎゅっと唇を引き締めて頭を下げるしかできなかった。

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