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雪虫6 54
「あの……雪虫は?」
研究所の雪虫の部屋は見渡すほどの広さはなくて、扉を潜っただけでいるかいないかわかってしまう。
「今、お風呂に入ってる」
つんけんと言われて反論したくなったけれど、オレがいない間、ずっと雪虫の傍についていてくれたことを思うと何も言えない。
「多分もうすぐ上がってくるよ」
「あ……りがとう……えーっと、ずっと雪虫のこと頼んじゃって、ごめんな」
「別に。雪虫はオレの友達でもあるし 」
もごもご と言った言葉はうまく聞き取れなくて、「ん?」って体を少し近づける。
「 で、大神さんは?」
「え? 知らない」
「し、知らないってどういうこと⁉︎ しずるがいなくなった日から見かけてないんだけど!」
ガバッと胸ぐらを掴まれて振り回されても、知らないものは知らない。オレが会ったのは殴られて山に運ばれた時が最後で……
「あ、でも、今なら研究所に来てるんじゃ……っ」
思わずスン と鼻が鳴った。
襟を掴まれて振り回されて……そうしてかき混ぜられた空気の中にほのかに香る匂いにオレの鼻は敏感に反応した。
明らかな異物の臭い。
「……セキ。またなんかやった?」
大袈裟に言えば鼻の粘膜を刺激するような感覚は、明らかにαの独占欲の滲んだソレだ。
繰り返し、大神で経験してきたフェロモンの刺激は絶対に間違えるものじゃない。
いきなり不躾なことを言い始めたオレにセキはちょっとびっくりしたようだったけれど、「何もしてないよ」と返してきた。
「ちょっと大神さんが顔を見せてくれなくて拗ねてたけど……別に、それくらいだもん」
心当たりがないと言っているのに、気まずそうに視線を逸らすセキ。
「なん 」
「あっ大神さんがきてるかもなんだっけ⁉︎ オレちょっと探してくるから!」
問い詰めようとした言葉よりも早く、セキは弾かれるように外へと飛び出していった。
止めようと伸ばした手は空振りし、相変わらずの逃げ足の速さで逃げたセキをひとにらみしてから、むずむずする鼻をこする。
あれは確かにΩに執着するαのフェロモンだった。
つまりあいつは大神が来ないからと、いつものようにいらないことを企んだということで……臭いはほんの微かだったけれど、オレほどじゃなくても鼻のいい大神なら気づくような気がする。
「そんなことになったら、めちゃくちゃ怒るんじゃないかな……あ、そうなったらそうなったらでセキの思うツボか」
小道具に使われた相手のことを不憫に思わなくもないけれど、オレにはどうしようもないことだ。
もっとも、セキは前科がありすぎるから今回も大神はスルーするかもしれないけど。
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