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雪虫6 55
むぅ……と唸っていると、浴室の方からカタンと小さな音がした。
「あっ雪虫! どうした⁉︎ 倒れたか? 怪我してないか? 開けるぞ」
浴室の扉に飛びついて開けようとしたら、中から「きゃっ」って小さな声が上がる。
普段は聞くことのない雪虫の悲鳴に、オレはサッと血の気が下がる思いでドアノブと勢いよく引っ張った。
「開けっ……————っくそっ!」
毎日の筋トレとか走り込みでオレの体は以前よりも随分としっかりしてきているから、これくらいのドアは体当たりでどうとでもなる。肩を押し付けるように勢いよく体をぶつけると、ミシリとドアがたわんで悲鳴のような軋みが響く。
「雪虫!」
「し……しずる⁉︎」
びっくりした声の雪虫。
驚いて倒れてなければいいなって願いながら、わずかに空いたドアの隙間に指先をこじ入れる。
「今開けるから!」
ドアの隙間から流れ出てきたのは涙が出るほど感じたかった雪虫のフェロモンの匂いだ。すっきりとした冬の花の匂いをしたそれを、オレはドアをこじ開けるのに必死になりながらも肺いっぱいに吸い込む。
嬉しくて、脈が早くなる。
幸せで、脳が痺れる。
番の匂いを嗅ぐことができただけで、自分は世界一の幸せ者だって大声で叫んでも許されると思う。
「ゆき っ」
「だめ! あけないで!」
「へぁ……⁉」
間抜けな声が出たのは雪虫に拒絶されたからだ。さっき、雪虫のフェロモンを嗅いで幸せに満たされた瞬間によくわからない地獄とかどっかその辺に突き落とされて、オレの頭はパニック寸前だった。
「え……えっ……でも、でも……」
「平気だから! まってて! こっちこないで!」
ひく と喉が痙攣したのは、はっきりとした言葉でオレを拒絶したからだ。
拒絶。
拒絶。
……雪虫が?
どうして? という言葉よりも先に、体が番の言葉に反応したのかぺたんと床に倒れ込む。
こんなふうに拒絶されたことがあったか思い出そうとしたのに失敗して、普段あれほどいろいろなことを覚えていられたはずななのに、何もない空っぽの頭になって……
「 っ、なにもなかったよ! ドアをこわそうとするのは、やりすぎ!」
赤い顔の雪虫に咎められて、オレは項垂れた。
やらかしたことに対してじゃなくて、もしかしたらこれで雪虫に嫌われるんじゃないかって恐怖に。
「しずる?」
「 っ、ごめん……雪虫が怪我してたらって思ったら心配になって。ホント、それだけで……」
鼻の奥のツンとした痛みに屈してしまわないように息を止めて目を見開いた。
こんなことしても、雪虫が怒るようなことをしたオレが許されるはずないじゃないかと、絶望を抱えてうずくまる。
「雪虫はおこってないよ?」
「ホント?」
「ちょっと……はずかしかった、だけ」
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