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雪虫6 57
自分の脈拍が跳ね上がったのがわかった。
不自然に大きく一拍飛んだ後に全速力で駆け抜けたように激しく弾ける。
まずい と思った。
異常な心拍はすぐに検知されてオレはここから連れ出されてしまう。現に遠くからあわただしい足音が響いてくる。
「雪虫! お願いだから! 何をしてたか教えてくれ!」
もうすぐここから引きずり出されるんだという焦りから、オレは雪虫に伸ばした手の力加減をうまく調節できなかった。
細い肩が手のひらの下でしなり、血色でふわりと色づいていた肌からさっと色味が消える。
よろけた雪虫をとっさに抱きしめて……そうするとはだけたバスローブの間から濃厚で、滴る蜜のような濃厚な匂いが立ち上った。
何度だって嗅ぎたいし、幾らでも嗅いでいたいそれは、いつもいつも発情期に感じるものだ。
そして、それに絡みつくαの……
「 そこまでだ!」
なだれ込むように入ってきたのは研究所の警備員たちだ。
手には拘束具とα用緊急抑制剤の注射器が持たれていて、この後、オレを取り押さえて薬を打ち、拘束するんだってわかる。
だから、
「雪虫っ! 本当のことを言ってくれ!」
「っ! いった! なんでもないって言ったもん!」
細い雪虫の声はなだれ込んできた警備員の声やけたたましい足音なんかにかき消されて、オレの耳に届く頃にはこま切れ状態だ。それでも雪虫がなんて答えたかぐらいはわかる。
「本当の、こと、を、 」
大きく見開いた瞳は怯えを含んで床に引きずり倒されたオレを見ていて……
恐怖を感じている視線を投げかけられて、オレはそれ以上雪虫に問いかける言葉を見つけられないまま、α用緊急抑制剤が連れてくる意識の闇に突き落とされていった。
番は、番だ。
オレと、雪虫で完結した世界。
二人だけの存在。
常に向かい合うべき人。
すべてを注ぎ込んでなお、満足できない相手。
雪虫が幸せそうにしてくれるならなんだっていい。
なんだってできる。
「…………なんだってできる」
雪虫が、オレ以外のαに触れられていたとしても。
「…………」
目が覚めると研究所から移されて、見かけたことのないマンションの一室に転がされていた。
そこにベッドがあるというのに、ぞんざいに床の上に だ。
「オレは……だいじょうぶ、ゆきむしが、おれにふまんがあって、ほかのあるふぁを、みつけたって」
αは幾らでもΩの項を噛めるけれど、Ωは一度嚙まれたらもう他のαは受けつけなくなるから。
「おれは、ゆきむしの、つがい、だからだいじょうぶ」
床に寝転がり、言い聞かせるように言葉を続ける。
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