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雪虫6 58
「だって、雪虫にはオレが必要だから」
雪虫に触れられるのは、項を噛んだα……つまりオレだけだ。番以外のαがΩに下心を持って近づくと、嫌悪と拒絶で体調を崩してしまうくらい、項を噛まれたΩは他のαを受け付けなくなる。
体が、そうなる。
薬を使って番のα以外と付き合うΩもいると聞いてはいるが、雪虫は薬品類にはアレルギーが多いためにほぼ使うことができない。
だから、雪虫に触れることのできるのはオレだけだ。
「おれだけ」
すがるように呟くと、それが胸にぬくもりを灯してくれた。
「オレが、雪虫の、番だ」
だから、あの時、雪虫の体から感じた外のαのフェロモンは……関係ない。
例えオレの目の前に現れたとしても、そいつはもう雪虫の番にはなれないまま、指を咥えて見ているしかできない。
「ざまぁ……ざまぁ!」
腕を振り上げたけれど感覚がなく、わずかにカーペットに筋を残しただけだった。
弛緩した体をそろりと見下ろして、高速具が外されている理由を知る。
α用抑制剤の副作用のせいで体がまったくいうことを聞かない。
タコかイカになった気分で、胴体の揺さぶりだけで腕をこちらに引き寄せる。
指先を見つめながらなんとか動かしてみようと奮闘するも、どこかで神経が切られてしまっているかのように、オレの手はぴくりとも動かなかった。
「ゆきむし ゆきむしのところ、戻らなきゃ」
今のオレにできるのは想像のαに向かって罵り声を上げるのと、胴体をわずかにくねらせることだけだ。
芋虫だって動けているんだから……と、オレは体を左右にのそりと揺らした。
コツを掴んでドアの傍まで転がってはみたけれど、そこにそびえたつ板はいつものように開くことはない。
気にも留めずに開け閉めしていたドアがこれほど脅威になる日がくるなんて。
ドアの下のかすかな隙間から何とかできるヒントが得られないかと、ごりごりと音がするのも構わずに顔を近づける。
「——それで?」
気だるげなすがるの声は感情を隠しきれていないからか少しざらついていた。
「貴方が直江をどうしようと私が口を出すことじゃないけれど、そのことで黙に影響があるのなら私にも一言言う権利がでてくると思わない?」
「黙に影響はない」
「そうね、、もうすぐおねむの時間だからね! だからって黙が悲しんだことがなくなるわけじゃない! 私は言ったわよ? 私が貴方に付き従っているのは、貴方が黙を尊重して守ってくれているから。黙がとりあえず貴方の傍が安全だと思っているからよ!」
大神の声は聞き取りにくかったが、すがるは感情が高ぶっているのか、腹からだされた声のせいか聞き取るのに苦労はなかった。
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