384 / 408

雪虫6 61

 小さくて体が弱くて、外の世界のことを何も知らない雪虫は、攫われる可能性も高いから外を出歩くことすらできない。  研究所のΩシェルターにある小さな世界だけがすべてで……だからオレは雪虫のために働くし、雪虫のために食材を育てるし、雪虫のために食事を作るし、雪虫のために楽しいことを見つけてくる。  それが結果として雪虫のためになるのなら、どんな瀬能からの無茶振りだって受け入れられるんだ。  だって、オレは雪虫の番だから。  雪虫の世界が全部オレが作ったもので満たされて、他に何も入り込む余地がなくなって、世界が二人で閉じれば…… 「二人だけの世界なら、雪虫は絶対にオレの傍にいてくれるじゃないか。おっさんだってそう思うはずだ! セキと二人きりで世界が完結したらって! 溶けて混ざって隙間なくピッタリと寄り添って、二人だけの世界。…………そうすれば、雪虫はオレを必要としてくれる」  あんな素晴らしい存在が。  そこにいるだけで幸せにしてくれる生き物が。  オレの傍にいてくれる。 「そんなに、捨てられるのが怖いのか」 「  っ、捨てられない! オレが雪虫の役に立ってるから!」 「お前を切り売りした両親に、金を送っているそうだな?」  唐突に突きつけられた言葉は予想外だったせいか、オレの思考にぽかんとした穴が空いた。 「ぇ、あ ……そりゃ、親だし、あんたに慰謝料払うために大変な状況だって聞いてるから」 「みなわとも、交流があるそうだな」 「??」  思考の穴はオレを冷静にさせ、大神の質問はそれに拍車をかける。  唐突で訳のわからない質問を頭の中で繰り返し、そりゃ当然だろうと呆れた顔で大神を見上げた。 「だ  って、オレの実の親って言われたら  」 「以前に雪虫に近づいたモザイク型のオメガともやり取りをしているそうだな」 「まぁ、シェルターから追い出しちゃったの、オレだし……やっぱり話を聞くだけなら聞けるし、それで心が軽くなるってこともあるから」  答えながら大神の表情を見て……大神は別にそのことに対して返答を求めていたんじゃないってことに気づいた。  オレは……散々金を搾り取った挙句、オレの精子を売ろうとした両親や、オレを産んで手放したみなわのこと、それから雪虫に粉をかけていたΩのことを思い出していた。  カリ と爪で手の甲を掻く。   「そんなの、普通、だろ」    言い募りながらオレは、手の甲を更にカリカリと引っ掻く。   「お前の献身は普通じゃあない」 「オレは、あんたのセキに対する態度が普通じゃないって思う」    苛ついて言い返した言葉に、大神の瞳の奥が小さく揺れたような気がした。

ともだちにシェアしよう!