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雪虫6 62
「セキは番じゃあない」
「あれだけベタベタとマーキングしといて今更だろ」
低く唸るように言うオレと大神が睨み合う。
「はい、そこまでよ」
お互いの視線を遮る形ですがるが間に割り込んでくる。そのおかげでピンと張った糸のような緊張感は不完全燃焼状態で切れてしまった。
取っ組み合ったとしても……いや、取っ組み合う前に殴られておしまいだとは思うけれど、発散できなかった怒りのやり場を見つけられないまま、イライラと拳を握る。
「君は当分、研究所には立ち入れないわよ」
「 」
「なんで」の言葉を飲み込めたのは、オレが雪虫を怖がらせたのを覚えていたからだ。
異常な興奮を見せて、警備員に取り押さえられて……本来なら、二度と研究所に立ち入ることはできない案件。
「頭が冷えるまで、大神の秘書として頑張りなさい」
「嫌です」
間髪入れずに答えたオレに、すがるは小さく噴き出す。
「君に拒否権も選択権もないでしょう? おとなしく言うことを聞きなさいな」
「それなら秘書業務じゃなくてもいいじゃないですか」
「あら、じゃあ秘書がダメな理由があるの?」
だって、そこは直江の居場所だから。
「それに、いろんな経験しておくと、人脈も増えるわよ?」
「人脈なんて……」
オレの生活には何の役にも立たないと言おうとしたのを遮られる。
「大神が服を作っているテーラーなんかは、肌にとっても優しい仕上がりなのよ?」
「え?」
「体に合わせて作られた服は着心地がいいでしょうね」
「……」
雪虫の肌は弱くて、選んだ服によっては縫い目でこすれて着られなくなるものも多い。
けれどそれを解決する方法があるとしたら?
「そ それって、雪虫の服を依頼することもできるんですか?」
「紹介があれば、ね」
紹介?
そこですがるが何を言いたいのか理解した。
「君の献身が、普通だというのなら断らないわよね」
「ぁ……う……」
雪虫に負担のかからない服を手に入れるためには紹介が必要で、紹介してもらおうとしたら人脈が必要で、人脈が必要なら……
きっと、服だけの話じゃないんだろう。
雪虫には他の人間よりもたくさんの手が必要だから。
「雪虫のためになりますか?」
「もちろん。むしろどうして自分一人ですべてできると思ったのかが、謎だわ」
はは! と笑うすがるに、今度蚕を育てようと思っていたというのは黙っておくことにした。
「だって、番が、自分のものだけで構成されて、自分の用意したものだけに包まれていたら、嬉しくなりませんか?」
「私に番はいないもの」
ひょいと肩をすくめてみせるすがるは「黙ならいるけどね」ときらりと目を輝かせる。
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