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雪虫6 65
「無謀すぎるとかばいきれなくなるわよ」
かばってくれてたんですか? なんて憎まれ口はさすがにきけない。出会ってそんなに時間は経ってはいないけれど、すがるはオレに好意的ではあった。
「……すみません」
呻くように言ったはいいものの動けないオレを、すがるはひょいと抱え上げると「気にしないで」と軽やかな返事をくれた。
せめて動けるようになるまで待ってくれればいいのに、大神は「忙しい」の一言でそれを一蹴する。
「自分ひとり忙しいみたいな顔をして! 本当に腹が立つわね」
すがるはつーんと突き出した唇で文句を言いつつ、オレを助手席に放り込んでシートベルトを締めつつぱちんとウインクをした。
「番じゃなくとも、好きな人の世界が自分で埋まればなって気持ちはわかるわよ」
流れてそれっきりの会話だったとばかり思っていただけに、なんとなく照れ臭くなって頷く。
「この子、抑制剤でうまく動けないから、安全運転してあげてよね」
そう運転席に向かって言った言葉に、 一瞬……一瞬だけ期待して運転席に目をやると、今まで見たことのない男が収まっていた。
いつも直江がいて挨拶をしてくれていただけに、ぐっと言葉に詰まって挨拶らしい挨拶が言えないまま頭を下げる。
「藪秋だ……見たところ随分と若いが……」
目の下にクマがあるからか? ずいぶんとガラが悪そうに見える藪秋はまじまじとオレを見つめて、後部座席に乗り込んだ大神を慌てて振り返った。
「……社長! こんなガキ、本気ですか⁉」
「お前がこのまま秘書を続けてもいいんだぞ」
「 っ、いえ……よく見れば利発そうな坊ちゃんで。まぁ俺はお役御免になるなら誰だって……」
もごもごというと藪秋はそれ以上オレのことには口を出すのをやめたらしい。
「会社に戻る。指示通りに行け」
「はぁい、了解しました」
滑らかに動き出した車の中は気まずい雰囲気が漂っていて、すがるも一緒に乗ってくれたらよかったのにと、手の甲のひっかき傷を睨みながら思う。
てっきり一緒に行動するのだとばかり思っていたために、なんとなく心細く感じる。
「明日までにそいつに引継ぎをしておけ」
「明日ですか⁉ 俺今日は家にかえ 」
大神のそっけない声は返事を求めているようなものではなかった。
完全な決定事項なのだと無言の圧力をかけられて……藪秋は渋々といった表情を隠しもしないままハンドルを切る。
「んで、ボクちゃんのお名前は?」
「 っ、あがわ しずるです」
最初にちゃんと挨拶しなかった自分が悪いのは百も承知だったが、だからと言って「ボクちゃん」と素直にはいと言えるわけがない。
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