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雪虫6 68

    「だって……番ですよ? 願いはなんだって叶えてやりたいし、ぐるんぐるんに包んで苦しいことなんて何もないようにしてあげたいって  」 「俺は思わんなぁ」    二個目を食べる藪秋の口元は海苔で汚れているし、零れたシャケが胸元に落ちている。   「いやまぁ、困ってたら助けるけどな? まずは自分でさせてみるさぁ」 「そ それで、取り返しのつかないこととか、傷ついたりしたらどうするんですか」 「え? 慰めて癒してやればいいんじゃねぇの?」    三口でおにぎりを食べきると、オレが食べようかと迷った梅のおにぎりをかっさらい、なんの躊躇もなくフィルムをむいた。   「話を聞いて、同調して、怒って、諭して、慰めて、抱きしめて、いっぱいいっぱい甘やかしてやる」 「…………」 「あいつが得る経験や得る感情を取り上げることが愛情だとは思わねぇよ。泥臭くても傷ついても自分で獲得した経験を誇る番を褒めてやりたいからな」    あいつ と言葉が出た段階で、藪秋には番か……もしくは番相当の相手がいるってことだろう。  藪秋は、そんな相手がわざわざ傷つくのをわかっていて放置しているってことか?   「別に放任がイコール相手を愛してないってわけじゃねぇぞ? 俺は信じてるから相手自身の判断に任せてんだ。信頼だよ、信頼」    話しながらも藪秋はさっさとおにぎりを食べ終え、茶のペットボトルを開けて一気に喉へと流し込む。   「相手も、俺が後ろでどーんと構えてるって知ってるから、やりたいことをやるんだ。何かあったら、絶対に助けてくれるって信頼してるからな?」 「オレだって、雪虫が何をしても、受け入れますよ」 「受け入れるんじゃねぇ、助けるんだ」    言葉が違うだけだろうと、面倒になって睨むように藪秋を見ると、その表情はおにぎりを頬張っていたとは思えないほど真剣なものだった。    雪虫がすることを理解して、受け入れる……じゃ、ダメなんだろうか?   「受け入れるっつーのは、自分が嫌だろうとなんだろうと飲み込んじまうってことだろ?」 「番に、やりたいことをやらせてやりたいって言ってたじゃないですか!」 「やりたいことをやらせてやりたいじゃなくて、やりたいことをやる、だ。なんで番の行動に俺の意見が必要なんだよ」    言葉の言い方程度の問題だと思っていただけに、藪秋に言われた言葉が思考が止められてしまった。    やりたいことをやらせてやりたい は、あくまで自分の考えだ。雪虫がやりたいことをオレができるようにお膳立てる。  それとは違い、藪北は相手のやりたいことを相手が自分でやるってことで……自主的だ。      

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