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雪虫6 69
オレを見下ろす薮秋の瞳はαらしい力強いものだ。
「あいつの行動に俺の意思は関係ぇねぇよ。上手くいったら『頑張ったな』下手をしたなら『後は任せとけ』でいいんだよ」
「不安になりませんか、自分の知らないところで番がどうしているのか。自分がいなくても楽しそうにしてるんじゃないか、もっと幸せにしてるんじゃないか、その方がいいんじゃないかって!」
冷ややかな薮秋の視線はオレの拳を撫で、それからオレの顔を見た。
無表情なのにせせら笑われているような気になるのはただの被害妄想だろうか?
「なるわけねぇだろ。そんな自信もないまま、お前はオメガの首を嚙んだのか?」
「……そんなわけないじゃないですか」
返したけれど、オレの言葉はどこか頼りなかった。
自分でそう思うのだから、藪秋はもっと頼りないと感じたのかもしれない、はっきりとした嘲笑に変わった表情がそれを物語る。
「まぁお前がどう思って、番をどう扱おうと勝手だがよ。しけたツラすんなや? なぁ?」
藪秋は隠しもしない嘲りを浮かべながら煙草を咥えると火をつけて、一度だけ深く吸い込んだ。
「社長はお前が使えるから置いてるだけで、舐められるようなヤツは使えねぇんだわ」
「ぇ……なに……」
「使えねぇヤツの、覚悟も決まってねぇ与太話に付き合わされる方の身にもなれや」
鼻先をかすめる煙草の香りは大神のものとは違う、市販の馴染みあるものだった。それを纏った熱がふぃと軌跡を残して動き……
「 っ!」
痛みや熱さよりも先に全身に鳥肌が立った。
脳みそを置き去りにして先に反応したのは筋肉だ。
視界の外にある手の甲が冷たい。
「な 」
何 の言葉が出ずにつっかえて、オレは払った腕の先を見た。
小さな赤い爛れが手の甲に浮き出て、皮膚が引き攣れる。
「なんでこんなこと……」
ジワリと追いかけるように煙草を押し付けられた個所から痛みが這い上がってきて、じっとりとした冷たい汗が脇を濡らす。
「あー……いや、なんかイラついてさ。悪ぃな」
再び煙を肺いっぱいに吸い込む藪秋は謝罪を口にしても謝る気は一切ないようだ。
煽るようにへらりと笑って細く長く紫煙を吐き出す。
「だから、顔は勘弁しといてやるよ」
「……それは、どーも」
睨みつけながら返したオレを、藪秋はちょっと意外そうな顔で見返す。
もしかしたら泣いて大神にすがりに行くとでも思われてたんだろうか? それとも、何も言えないまま我慢するとでも?
「それじゃあオレが殴り掛かるのもまずいですね」
「はは。お前みたいなのに殴れるかよ」
藪秋は机に煙草を押し付けると、線を引くようにそれを動かす。
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