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雪虫6 71
ただはっきりとした悪意だけが残されて、気持ちの悪さに喉元をさすった。
立食式のパーティー会場で前から歩いてくる一団に気づき、大神の傍によりながら潜めた声で告げる。
「左から、クロノベル製薬の営業本部長の神谷常務。新薬開発担当、三浦専務。財務担当の黒田取締役……先頭の女性が先日代表取締役社長になった時宝社長です」
オレの言葉に、大神は一瞬だけ視線を送ってきた。
場所が違えば問い返したくらいには意味ありげな視線だったけれど、今はそれどころじゃない。
「ご主人が病気で亡くなられて、奥様が就任されたそうです」
早口で告げたオレに「ああ」とそっけない返事が返る。
一団との距離が近づき、相手が明らかにこちらに接触しようとする気配を感じて、オレは大神の後ろに下がった。
テレビの中だけでしか見たことがないような、きらびやかなシャンデリアと同じくらい色とりどりに光る食事と……それから、パーティーの名にふさわしい格好の人々がそれぞれに会話を弾ませ、会場内はやかましくはなかったがずいぶんと騒々しい。
大神に連れてこられなければ一生縁のない空間は居心地が悪い上に、オレが慣れていないのがわかるのかチラチラと見てくる視線が多かった。
一団が目の前で立ち止まった。
「お久しぶりですね」
時宝社長が手を差し出す。
知り合いなら、オレが告げた情報は無駄だったのかもしれない と、大神の巨体に隠れてこっそりと様子を窺う。付け焼刃の知識しかない俺が話を理解できるとは思ってはいないけれど、記録係として覚えておくくらいはしないと……
「ええ、お会いできてよかった」
軽く握手を交わす二人……を見て、オレは大神が愛想笑いができるんだと、今世紀最大の発見をした気分で息を飲んだ。
てっきりずっとあのむっつりとした表情で、商談も威圧感でどうにかしてたんじゃないかと思っていただけに、びっくりしすぎて過呼吸になりそうになる。
その時、時宝社長の視線がふと動いてオレを捕まえた。
「……失礼」
穏やかな笑みは柔らかく、好意的だったが初対面の相手に向けるには感情がこもりすぎているように思えた。
「そちらの方は、新しい秘書の方?」
そう問われてしまえば、大神の後ろに隠れているわけにもいかないから、一歩前へ出て、静かに頭を下げた。
「ええ。先月から私の秘書を務めてもらっています」
「なるほど。以前の秘書の方とは、雰囲気がずいぶん違いますね。直江さんは?」
その言葉に、大神はほんの少しだけ目を細める。
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