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雪虫6 74
「あのアルファの秘書は?」
舌なめずりするような嫌な視線で爪先から頭の先までを撫でてから、オレの首元をちらちらと見てくる。
オレが直江の後任であるなしにかかわらず、不躾な態度だった。
「大神さんのお相手でくたびれてしまわれたのでは?」
はは と笑いながら言う篠崎はオレを見てニタニタと笑う。
そりゃあ直江がこなしていた仕事量は、藪秋とすがる、そしてオレでなんとか回せているくらいなのだから、大神に付き合って過労で倒れたと思われてもしかたない。
もう少し秘書の労働状況を考え直してもらわないと と考えているオレの手を、篠崎がなんの遠慮もなく掴んでくる。
「は……はひ⁉」
生暖かくて湿って……そしてちょっとぬめっている手に右手が包まれて、オレは頭の中が真っ白になった。
このおっさんは何をしてるんだ⁉ 反射的に殴りそうになって、大神の刺さるような視線に押し留められる。
「あ、の、手は、な、んで 」
「君、こんな場に来たの初めてだろう? まだ若いようだし、慣れなくて緊張しているね」
手が冷たくなっているよ とわざとらしいまでの柔らかさを装った声で尋ねてくる。
「いえ、緊張などは 」
何が起こったのかわからず、しどろもどろと答えていたのがわるかったんだろう、篠崎はするするとオレの手を撫でまわす手を腕へと上げていき……
そこでやっと、この男が言っていた意味が性的な意味で、しかもこいつは首の噛み痕を見てオレをΩだと思い込んでいるんだってわかった。
もともとβに擬態していたからαらしい体格ではなかったし、首には雪虫がつけた噛み痕があるし……何より、ここ最近の激務で激やせしたオレはやつれたせいか線が細くなってしまっていた。
だから、そう見たい人にはオレはΩのように見えるんだろう。
「彼はベータですよ。篠崎さん」
「え? そうなの? 直江くんみたいにアルファと思ったらベータでしたって奴かぁ。大神さんの好みらしぃねぇ」
篠崎は急激に興味を失ったようで、放り投げるようにオレの手を振り払うと、もうオレはいてもいなくても同じように大神のほうへと向き直った。
「別に集めようとして集めているわけではないのですが、ね」
「集めようとしていないのなら、じゃあ直江君はこちらにくださいよ」
ここでも直江の引き抜き話が出て、オレは呆気にとられながら一歩下がる。
「あそこで人気ナンバーワンだった『i』だからね。大神さんが手放すなら 」
「手放したわけではありませんよ」
「へぇ」
篠崎の目は信じていない人間のそれだ。
「けちけちせずに、ウィンウィンで行きましょうよ、ね?」
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