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雪虫6 75
「こちらもいつそう思っていますよ」
「またまたぁ、そんな心にもないことを! 聞いてますよ? ————」
そこから先は声を顰められすぎてオレには聞こえなかった。けれど、話を聞いた大神が小さく溜め息を吐いた様子を見るに、いい話ではなかったようだ。
「隠そうとして隠しきれないのがこの界隈です。狭いですからねぇ」
「そのようですね。まぁ詳しくお知りになりたければ瀬能先生にお聞きになる方が早いですよ」
「ははは。お忙しくてお顔も見れない状態ですよ」
「もともと忙しい方ですから」
大神はそれ以上、何も言わなかった。
オレは二人の会話を聞きながら、さっき掴まれた手をスーツの裾でごしごしと擦る。
気持ち悪い。
オレはβと偽れるような外観だったから、そういう目で見られるなんてことが今まで一切なかったから気づかなかったけれど、Ωはオレが思っているよりもはるかに多くの篠崎の視線のような不躾なものに晒されているんだろうか?
初対面の人間に対して、あからさまに性的な視線を向けることがさも当然という態度に、オレはムカムカしたものを感じて唇を引き結んだ。
一通りの挨拶周りが済み、チャリティーイベントであるオークションが始まるタイミングで大神は休憩してこいと言ってくれた。
てっきりこのままお開きまで後ろに控え続けなきゃいけないのかと思っていただけに、オレと交代で現れたすがるに礼を言って控室まで戻る。
控室といってもパーティーの行われているホテルの一室だけれど、パーティー会場なんて言う緊張する場所から逃げ出すにはうってつけだった。
「おー。お疲れさん」
部屋に入るとむっと煙草の煙が鼻につく。
藪秋は取り繕う気もないのか、ワイシャツにパンツという姿で椅子にもたれて煙草をふかしている。
「お……疲れ様です……煙草の臭いが服につくとすがるさんに怒られますよ」
この部屋にはいざという時のために大神の着替え一式が置かれている。
大神自身もヘビースモーカーとは言え、目の前が曇りそうなほどの煙を吐き出されては互いの煙草の臭いが混じって大変なことになりそうだ。
「あーもー。クソめんどくせぇ、控室待機なら家に帰ってもいいだろ⁉」
部屋でいじけている理由を説明する藪秋を尻目に、オレは少しだけ窓を開けようと窓際に向かう。
「やめとけやめとけ。そっちに立つな。撃たれるぞ」
「————は?」
「は? じゃねぇよ。窓の傍は狙撃対象になりやすいから近寄んな。これ以上俺は仕事したくないんだよっ」
そう言うと藪秋は面倒そうにバタバタと手足を振り回した。
「ちょ……そんなことしてたら、裾から金玉見えますよ」
「見せてんだよ」
藪秋の言葉はもう完全にすねた子供のようだった。
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