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雪虫6 78
大神の父親。
あの男も人間から産まれたんだ と思ったらさすがに失礼なんだろうか? それでも、あの大神におぎゃあと泣いた日があり、あどけなく笑う時があったなんて信じられない。
「社長が会社を興した際、その父親の伝手を多く使ったそうだ」
「それで?」
オレの返事に藪秋は苛ついた様子で新しい煙草を咥える。
「今の社長の成功の土台が、『父親の子供だから』って部分だ。大神悟の息子だから手を貸したんだ、それが覆ったらどうなる?」
「えっと……ダメ、なんですか?」
今の大神は成功していて羽振りだっていい。
それくらいなら別にいいんじゃないか、どうにかできるんじゃないかって思うのは……
「はっ」
鼻で笑われて、それじゃダメなんだとわかる。
「その人脈が、大神にとってどれだけ価値のあるもんかはわかんねぇ辺り、クソガキはクソガキのままだな」
「……いやまぁ、ガキですけども」
「ともかく、金の問題だけじゃねぇ。信用だ。親父の名前と、親子だって事実そのものが担保になってたんだ」
「だから、ベータなんですか」
藪秋は「そういうこった」と呟くように言いながら、煙草に火をつけて深く吸い込む。
「大神がアルファだとしたら話が変わる。担保が担保の役割を果たさねぇばかりか 」
母親の不貞の証拠になる と、藪秋の視線が告げる。
自分たちの信奉する相手の子供でないばかりか、托卵という最悪の現実を前にどういった行動に出るかは……
「正攻法で手を出してくる奴らは簡単だがな、そうじゃない奴らばっかりだ」
オレはつい、窓の方に視線を向けた。藪秋が「狙撃されるぞ」と忠告してきた言葉が蘇り、ぶるりと震えがくる。
「裏の世界ってのは実績だけじゃ動かねぇ。誰の息子なのか、誰の後ろ盾があるのか、誰と繋がってるのか、そういうくだらねぇもんが、案外馬鹿にならねぇんだ」
大神自身、自分のバース性が何であるかなんてわかっているはずだ。
だからこそセキにはあんなに頑丈なネックガードをつけさせているし、抑制剤の代わりになる馴染まない香りの煙草を吸っているんだろう。
「そんなの……綱渡りじゃないですか」
いつ何時、何が原因でバレるのかわからない。バレたらその瞬間……
「————だから、直江さんはデータを……持ち出したんですか?」
瀬能は大神の健康診断から抑制剤の用意まで、すべてを担っている。だとしたら、「本物」のデータが研究所にあるはずだ。
紫煙の向こうで、藪秋の目が冷たく光る。
「余計なこと、言うんじゃねぇぞ」
「そ……オレは、まだ直江さんが無実だって信じてますっ」
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