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雪虫6 79
「信じてる、ねぇ」
藪秋はどこか呆れたような様子で煙草を弄ぶ。
「や……藪秋さんは、信じないんですか? 知ってる人なんじゃ 」
「ふざけんなよクソガキ。直江とは昔からのツレだ、知ってるとかそんなレベルじゃねぇ」
だったら の言葉を飲み込んだのは、藪秋が顔をしかめて視線を逸らしたからだ。出会って以来、睨まれることはあっても逸らされることはなかったから、逆になんだか気まずくなる。
この人は直江が大神のデータを持ち出して、その結果どうなったかをわかっていて……
食いしばる歯の間から漏れる煙に、顔がしかめられる。
「……すみませんでした」
今度はオレが気まずく視線を逸らした。
「まぁ、せっかくの休憩なんだ、雪ちゃんの声でも聞いて気持ちを切り替えろ。俺はちょっと外の空気吸ってくるからよ」
「……」
握りしめていたままになっていた携帯電話にそっと視線を落として、曖昧に頷いて返す。
スラックスを履いて出ていく藪秋を見送り……電話はできないのだと正直に言うべきだったのか、これでよかったのかわからないまま椅子に腰を下ろした。
トラブルを起こしたオレの電話は、雪虫に取り次いでもらえない。
瀬能の計らいでかろうじて許されているのが、うたやセキから雪虫の報告を聞くことだけだ。
「なんでこんなことになっちゃったのかな……」
最初の頃に引き離されたことはあったけれど、その時は扉越しに声を掛け合うことはできたし、指先だけでも触れ合うことができた。
でも今は、それすらできない。
自業自得だとはわかっている、わかってはいても謝罪の機会すら与えられずに引き離されると……
有り得ないと理解はしていても、雪虫に他のαの臭いがついていたのは事実で。
普通の生活を送っていたら、他の人間の臭いがつくなんてあることだ。でも雪虫はそうじゃない。
そういう環境にいるからこそ、その臭いの異質さが際立つ。
「雪虫だけじゃなくて、セキも絶対に絡んでるはずなんだ」
フェロモン香水だとか嫉妬させるだとか、そう言ったことを率先して持ち込んでくるのはいつもセキだ。
電話をして問い詰めてみるか? と思い始めたところで、携帯電話の画面がぱっと明るくなって着信があることを教えてきた。
「……タイミングよすぎないか?」
オレの画面に出ているのはシンプルな「セキ」の二文字だ。
「もしもし?」
「——う……なんでそんな不機嫌そうなの? もしかして、まだ怒ってる?」
普通に出たつもりだったけれど、声が低くなってしまっていたらしい。軽く咳込んでから「別に」と返すと、軽い沈黙が返ってくる。
「本当に、もう怒ってないって」
「ホント?」
しつこいくらいに確認を取ってこようとするってことは、後ろめたいことがないわけじゃないんだろう。
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