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雪虫6 82
「いいか。馬鹿なことを考えるなよ」
「考えませんって! あの……それよりも、この集まりってどれくらいで終わるんでしょう? セキから社長に伝言を預かったので……」
「普段通りなら23時だな」
腕時計を見て……溜め息を吐くしかない。
「会食にパーティーにって、こんなに必要なんですか?」
「そりゃそうだろ。人脈作りに商談の機会作りに、それからイメージアップのためにな」
今回のパーティーではオークションも行われていて、確かすべてΩのための保護施設や自立支援のために使われると聞いた。
確かにイメージはいいだろうけれど、本人の人相が人相なんだから限界があるだろう なんて、思ってしまう。
「まぁあとは、いろいろな」
「いろいろ」
「そ、いろいろ」
お前にはわかんねぇだろうなって雰囲気が透けて見えるけれど、何も言わずに素直に頷いて返すことにした。
「来ないんだったらせめて服を持ってきてって言って!」
濁音が入りそうなほど低い声が携帯電話から漏れ、オレは慌てて耳を離す。
「あ! パンツ! パンツでいい! パンツで妥協する! むしろパンツ下さい!」
「連呼すんな。恥じらいを持て」
スピーカーにしてないのにそれでもセキの声はキンキンと耳に届く。
周りに人がいないのは幸いだったけれど、いくら友達とは言え電話口で「パンツ! パンツ!」と連呼されるのはなんかいやだ。
「パンツいいじゃん、パンツ。秘書なら盗り放題だろ? けちけちすんな、けちー」
「ケチとかじゃない! 普通に怒られるだろ!」
それに、大神の服類はすべてぐるっとクリーニング直行だから、オレが手出しする場面なんてない。ってか、普通に他人の下着なんて触りたくないだろ。
「直江さんはしてくれたのに?」
「 っ」
すねたような、甘えるような声音は純粋で、セキは直江がどうなったかを知らないようだった。
「……オレは、直江さんじゃないから」
「そう だけどー。大神さん、そんなに忙しいの?」
オレの声音の変化に気づいたのか、セキは必要以上にオレを責めようとはしなかった。
「ん。スケジュールはびっちりだな。とりあえず瀬能先生には連絡とってくれるって言ってたし、一週間後にはちゃんとスケジュールも空けてあるから」
逆を言えば、その空きを作るために仕事を詰め込んでいるのかもしれない。
セキの発情期のために……
「雪虫は、どんな様子かな?」
「雪虫は 元気」
わずかな間がすべてを語る。
「ご飯、ちゃんと食べれてるか?」
「オレの味付けはちょっと苦手みたい。ほら、俺って舌がバカだから! だからみなわさんも手伝ってくれてて、この間はゼリーを美味しそうに食べて……」
明るく言った言葉は次第に尻すぼみになっていき、続きを探しあぐねて止まってしまった。
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