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雪虫6 83

「……ごめん。あんまり、食べてもらえてない。しずるに会いたいって言って……具合、悪そう」 「っ!」  ひゅっと喉を通ったのは空気だけで、音はかけらも出なかった。  それでも電話の向こうには気配が伝わったのか、セキが再び謝ってくる。 「せん……先生は? なんて?」 「瀬能先生の代わりに診てくれている先生は、……しょうがないって」  しょうがない。  なんて無責任な言葉なんだと思うと同時に、この事態を招いてしまった自分自身にも腹が立って…… 「もともと体が弱いし、薬を使えない以上は限度があるって」 「は? それじゃあ雪虫は放置されてるってことか⁉」 「放置ってわけじゃないけど……先生も困ってるみたいで……」  わかっている。  全部自分が悪いんだってわかっている。  それでも抑えきれない怒りに、ぎりぎりと奥歯が鳴った。  セキは、もう一度「ごめんね」と小さくこぼして沈黙する。  セキは悪いわけじゃない。いや、今回の原因にまったく関わっていないかどうかで言うならば、限りなく黒だけれど、それを差し引いてもこれだけ親身に接してくれることに感謝しかない。  雪虫のことに心を砕いて、こうやって謝りまでしてくれるのだから…… 「俺、瀬能先生に連絡とって、研究所に入れてもらえるようにする! 大神さんにお願いしてみる!」 「  っ、頼めるか?」 「当たり前だろー⁉ 二人は俺の友達なんだから、頼むくらい簡単なことだよ! 任せて!」  ぱっと弾けた声は先ほどまで落ち込んでいた声音とはまったく違う。  この切り替えの良さがセキの長所だよなって、ほわりと胸が温かくなるのを感じる。 「 ……あ、ただ…………これだけは教えて欲しくて……」  本当はこれを掘り起こすのはよくないことだとわかっているけれど、それでもαとしての矜持の部分がチクチクと刺すように主張するのだから仕方ない。 「あの日、オレが研究所から連れ出された日。あの日は……雪虫は何をしてたんだ?」 「えっ⁉ あれは……」 「……」  藪秋にはさんざん言われたけれど、やっぱりオレには藪秋のような態度はとれなかった。  だから、何か……信じたくないことだけれど、寂しさか、それとも好奇心からか、もしくは……心が離れて、他に触れたいと思うαがいたのだとしても、すべて飲み込んで受け入れようと心に決めた。 「あの日は……っほ、本当に、俺から聞くの?」 「そういうってことは、セキは雪虫がどうして一人で風呂に入っていたのか、アルファの臭いをさせていたのか、理由を知ってるっていうことだな?」

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