2 / 5
第二話 苦い熱の濁流
【第二話 苦い熱の濁流】
補佐としての仕事がない休日。洋輔は今日も生徒会室で仕事をしているから部屋には俺一人。平日では手の回らない細かなところの掃除がしたくて、俺は伸びてきた髪を括ってジャージに着替えていた。とりあえず簡易キッチンと洗面台周りを一通り終わらせて、ダイニングの小物の埃を拭き始める。もう少し進めたらお昼ご飯にしようか。冷蔵庫に何が残っていたかな。食堂に行った方が早いだろうか。食べたいものも特に思い浮かばないんだよな。というか、掃除今日中に終わるだろうか。郊外で土地が安かったとはいえ、高校生の寮に二人で2DKはやりすぎだと思うんだよ。役職持ちだから特別広い部屋、という訳じゃなくて、一年生だって四人か三人で同室になるとはいえ、トイレと独立洗面台に簡易シャワーは各居室に備え付けられている。加えて共同のものも別個で用意されている、らしい。使ったことがないから詳しくは知らないけど。今は呪縛印で封じられているけど、俺は水を浴びると本来の姿の片鱗が現れやすいから、個室の風呂は有難い。生徒会長の部屋だけあってここの風呂は浴槽もあるし広々としているから、気が楽だ。そういう個性のために一人で使えるシャワー室が作られているのだと頭ではわかっているし、俺もその恩恵に与からせてもらっているが、どうにも生まれが庶民なせいで豪華だなという印象がいつまでも消えないのだ。ちなみに、個別の寝室が用意されているのもシャワー室と同様の理由である。
惰性のように思考と指先を動かしていると心が安らぐのを感じる。
喋らなくていい。話しかけられなくていい。それがこんなに気楽だったとは知らなかった。会話は好きだったはずなのに。寂しがり屋で、いつも誰かと一緒に過ごしたがっていたのに。半年近く声が出なくなっただけでこんなにも人は変わるんだ。切ないような、人間の逞しさを知ったような。
ピロン、とメッセージアプリの通知音。手元の小物を戻しながら、すいすいと指先を動かして通知を確認した。
『インターフォン鳴らすから部屋の鍵開けてほしいな』
送信元は洋輔の従兄弟である治幸 先輩だった。俺も入学前に面識はある。洋輔の一つ年上の三年生で、去年まで前副会長の補佐を務めていたのだと聞いた覚えがある。だから俺たち生徒会役員とその補佐のことにも理解があって、この部屋にもたまに俺の様子を見に顔を出していくことが時折あった。お喋り好きの先輩は俺が首肯だけの返事ばかりでも気にしない振りをして話を続けてくれるから、俺にとってもいい息抜きになっている。
間抜けな表情のコアラのスタンプを送り返して、来訪を告げるインターフォンのカメラを念の為確認。掃除道具を引っ掴んで自分の部屋に放り込んでから、俺はばたばたと玄関まで先輩を迎えに行った。
「こんにちは~、お邪魔します……あれ、ごめん掃除でもしてた?」
「っ!?」
緩い挨拶をしながら部屋に入ってくる先輩は、俺を見詰めるとこてり、と首を傾げた。上背がある割に可愛らしい仕草が似合う人だ。ではなく。どうしてバレたのだ、という気持ちを込めて手をパタパタと動かしながら先輩を見詰める。
「ふふ、だって、涼ちゃん珍しく髪まとめてるし、運動好きじゃないのにジャージだし」
あとは、そうだなー……と悩むように先輩は視線を宙で遊ばせてから、俺の手を取って鼻先まで引き寄せた。
「うん。洗剤くさい」
「!」
ちょっとおこです、という意思表示でとん、と軽く床を踏み鳴らす。こういう動作で理解してくれる察しの良さとふざけるのが好きなお茶目さが同居している人なのだ。笑いながら謝罪をする先輩をようやくダイニングへ迎え入れて、そういえば昼食の時分だったなと時計を見上げた。
「食堂でテイクアウトしてきたよ。多めに買ってきたから好きなだけ食べな」
余った分は俺が食べるから。そういう先輩はかなりの健啖家だ。テーブルに広げられたサンドイッチは二人分を大幅に上回る量がある。多分、俺が最近痩せている……これは、俺も最近やっと自覚したことだが、そういった事実だったり、分け合って食べやすかったりといったことを考慮してのこのチョイスなのだろう。小振りだがサイドメニューの生ハムサラダはきちんと一人前が俺用に用意されているから、これは最低限食べきるようにと暗に告げられているな。
正直先輩が来なかったら昼を抜いていた可能性もゼロではないので、このご厚意は有難く頂戴することにする。これ以上細くなるのは流石にまずいと、浴室で鏡を見た時にようやく自覚したのだ。
「最近一年生の子が生徒会室、というか、洋輔に付き纏ってるんだって?」
昼食を食べ進めながら雑談を交わしていれば、先輩が思い出したように坂木のことを話題に出してくる。三年生にまで話は広がっているのかと頭が痛くなる思いだ。少しだけ逡巡してから、こくん、と頷く。この忙しい時期に大変だねぇと言いながら先輩はぱくりと大きな一口で手元に残っていたサンドイッチを頬張った。
もぐもぐと先輩がのんびり咀嚼している間に、俺はしゃくしゃくと手元のサラダをドレッシングと混ぜ合わせる。大変。それは本当。仕事に支障が出ているから。でも、そういえば、洋輔がどう思っているのかを俺は知らないなと今更のように気が付いた。毎日生徒会室の前で立ち入り禁止を言い渡して門前払いをしているから、てっきり彼のことを迷惑に感じていると思い込んでいたのだけど。思い返してみると、洋輔は校則違反を咎めるばかりで彼個人への攻撃的な発言をしたことはなかったように思う。他の生徒会メンバーが多かれ少なかれ苦言を呈している時も洋輔は沈黙を保ったまま書類を捌いていたような。
彼への拒絶が形式上だけのものだったら?ふと不安になり、サラダを突いていたフォークの動きが止まった。本当は洋輔も坂木の方が良いと思っていたら。でも、もし真実彼を選びたいというのならすぐにでも俺を補佐から外して坂木をその枠に収めればいいだけの話、だろうし。
はあ、と大きく溜息を吐いて、大きく口を開いてサラダを詰め込めるだけ詰め込んだ。先輩の一口と比べるとそれでも小さな一口だが。
洋輔の気持ちなんて今ここで考えても仕方がない。何かあれば向こうからアクションがあるだろう。言葉より行動で示すひとだ。逆を返せば、洋輔から何も動きがない内は俺はこの立場を手放さなくて済むのだ。下手な地雷を踏むより何もせずにいる方が賢い選択に思えた。沈黙は金。雄弁にはなりようもないけど。それは言わないが花。
「涼ちゃん」
ミニカップに入ったコーンスープをこくりと飲み干せばそのこっくりとした甘さでさっぱりとしたサラダの風味が搔き消えていく。コーンスープは甘くて美味しいから好きだけど、すぐにお腹がいっぱいになるのが難点だ。先輩はサンドイッチにご機嫌そうにかぶりついていたけれど、ふと何かに気が付いたように顔を上げて、先程よりも乱暴に残りのサンドイッチを口の中に押し込んだ。咀嚼を続けながら指先をお手拭きで拭って、あっという間に口の中を空にした先輩が俺の名を呼んだ。かたりと軽い音を立てて腰を上げた先輩が俺の方へ指先を伸ばす。
「触れるよ」
圧し掛かるような声色にぴくりと肩が揺れる。先輩は、治幸さんは、時折こうして逆らえないようなプレッシャーを放つことがあって、それが本当に洋輔にそっくりで。いや、洋輔が治幸さんに似たのかな。小さい頃、俺と出逢う前はよく二人で一緒に勉強していたと聞いたことがある。
先輩は、印を、呪縛印を確かめる様に指先で俺の首をゆるりと撫でた。怖いと思うのは、今俺が感じる恐怖は、きっと急所に触れられている本能的なそれではない。この人なら呪縛印を解いてしまうのではないかという、有り得もしない恐怖からだ。
潜在的な能力は洋輔の方が上なのだという。けれど、治幸さんは底の見えない人で。それは性格でもあり、交友関係でもあり、能力でもある。どこまでが彼の本当の本気なのか、俺にはまだ分からないでいる。
かり、と包帯の留め具を爪先で引っ掛かれた。
「っ」
反射的に俺は先輩の手を振り払っていた。ぱしり、と音こそしたが、先輩は痛がる素振りもなく、俺に怒るでもなく、ただ振り払われた手を眺めている。そして、洗剤の残り香を揶揄った時の様に指先の香りをくん、と確認すると、幼子を宥めるような声色で俺に語り掛けてくる。
「涼ちゃん、最後に魔力を受け取ったのはいつ?」
「……、……」
答えたくないと首を横に振る。不出来な子の手を引くように、愚図る子の背をそっと押すように、柔らかくて穏やかな手で、声で。それでも先輩は俺を追い詰めてくる。違う。分かってる。今の状況のまま、呪縛印なんて付けたまま、コミュニケーションも碌に取らない関係の俺たちの方が余程不健全だって。だから先輩はこうして俺の元へ現れては種を蒔くようにきっかけをくれるのだ。その種を、俺はいつも踏みつけては固い土の下に眠らせてしまうとしても。
恵みの雨は、降らない。
「食欲がないのは体内の魔力が上手く循環していないのも要因だね。涼ちゃんから洋輔へは……言えないか。あの馬鹿が気が付いてない訳ないと思うんだけど。ま、荒療治も治療の内だよね」
包帯緩んじゃったから留め具直すよ。今度はそう宣言してから先輩は俺の首元へ手を伸ばした。根拠はないけど、もう何もされないだろうと思って首元を差し出すように顎を軽く上向きにする。
本当は魔力漏洩防止の守りでも付けてあげられたらいいんだけど、それはアイツがキレそうだからねぇ、と話しながら包帯を整えていく先輩の手に不埒なことをしようという意思は感じられない。声色もいつもの柔らかくて少し間延びしたそれだったから、ほう、と俺は吐息を漏らした。知らない間に肩に力が入っていたらしい。
が、その弛緩も束の間。バン、と玄関の扉が荒々しく開かれる音がして、俺は体を跳ねさせた。
「オイ」
地を這うような声、とはまさにこのことか。
出入り口に近い方に座っていたのは先輩の方で、どしどしと騒々しい足音を立てながら入ってきた洋輔は彼の肩口を掴むと思い切り自分の方へ引き寄せた。慌てて俺も立ち上がって二人の側へ近付く。眉間に深い皺を刻んだ洋輔は、自分の不在に俺が他人を招いたことが余程不快だったのか、これまでに見たことがないような怒り具合だった。
「何しに来た。何をしていた」
「んー、何も?」
肩口を掴まれて凄まれているこんな状況でも、先輩はゆったりと余裕のある態度を変えない。いや、逆か。そういう態度を取って洋輔を煽っている、ように見える。どうしてそんなことをするのかはわからないけど、先輩が無意味に洋輔を煽るとは思えない。仲裁しようにも口をきけない俺はただ落ち着きなく手を上げたり下ろしたり、一歩踏み出しては元に戻してを繰り返していた。
「何もしてないけど、俺以上に何もしてない奴がいたから、いらないならどうにかしちゃおうかな~って思っただけ」
瞬間、部屋を洋輔の魔力が覆い、その重圧に膝が折れそうになった。テーブルに手をついて息を整える。重い。重い。……熱い。
素肌越しに吸収される濃厚な魔力に体の芯が潤っていくのを感じる。今までだって別に飢えるほど魔力の供給が無かったわけじゃない。授業で必要そうなときにはある程度の量を貰っていたし、生徒会で近くにいるときは自動的に補充だってされていた。でも、こんなに満たされる感覚は、もう、何年も感じたことがない。首元の印が熱くて、頭がぼうっとして。何より、腹の底で熱がぐるぐると渦巻いて、満たされているのに、それでも尚もっと寄越せと叫んでいる。
「……っ、……」
吸い込む空気さえ火傷しそうに熱い。でもその熱が心地いいのは、俺が洋輔の番だからだろうか。それとも、単に俺の頭がおかしくなってしまっただけ?わからない。熱に浮かされたように意識がぼんやりとする。
「オーバーヒートすんのは勝手だけどそんなに大切ならちゃんと見ててやんな」
「っだまれ!」
視界の端で洋輔が先輩を振り払ったのが見えた。先輩は少し踏鞴を踏んだだけですぐに姿勢を整えると、洋輔のおでこにデコピンをする。洋輔の短い悲鳴を聞き流しながら先輩は一切れのサンドイッチを掴むとその角をピ、と洋輔に向けて先輩は続けた。
「図星だからってキレないの。俺もう帰るから、ちゃんとケアして、あと、土足だから靴は脱げよ」
それ、と先輩が指差したのは洋輔の足元。ローファーのままのそれは、床を少しだけ汚していた。デコピンで気勢が削がれたのか、おでこを押さえて目元を隠した洋輔が深く息を吐く。何度かそれを繰り返すうちに部屋を押し潰さんとしていた洋輔の魔力は拡散していって、ただ洋輔の魔力がぼんやりと部屋中に蔓延しているだけになった。正直に言うと、俺にとっては物凄く呼吸がしやすい空間だ。
手のひらを外した洋輔はバツの悪そうな表情でそそくさとローファーを脱いで指先にぶら下げる。それを見て一つ頷いた先輩はぽんぽんと洋輔の肩を軽く叩くとその横をするりと通り過ぎて玄関へ向かっていった。背中越しに残りのサンドイッチ食べちゃってねぇ、と間延びした声。本当に、底が見えない。
洋輔も靴を置いてくるためだろう。先輩の後を追って小声で二、三会話をしていた。俺はと言えば、もう熱に浮かされて使い物にならなくて、ダイニングテーブルの横にある小振りのソファに腰掛けるのがやっとだった。背凭れに深く沈み込んで、浅く呼吸をする。目を閉じているせいで、洋輔の魔力に包まれていることを洋輔に抱きしめられているかのように錯覚しそう。深く呼吸をするとその分深く魔力を吸い込むことになって、その度苦しいくらいに魔力に満たされて頭が可笑しくなりそうだった。
「……オイ」
洋輔の声が聞こえて、そろそろと瞼を開く。部屋の明かりで逆光になっている洋輔の表情は伺えない。声は出ないから、なあに、と口を動かして返事をする。伝わったかな。わからない。お酒に酔うってこんな感覚なんだろうか。
先程までの怒気は何処へやら、不機嫌そうではあるものの、彼の声はいつものそれよりうんとまあるく穏やかなそれだった。こんな声、いつ以来だろう。
「今度アイツが来たら先に俺に連絡しろ」
そんなに先輩が勝手に自分の居住スペースに入るのが嫌だったのかしら。でも、今までも何度か先輩が遊びに来たことはあったのに。自分が把握していないのが嫌、とかかな。今日は喧嘩みたいになってしまったけど、洋輔と先輩の仲は別に悪くない。会えるなら自分も都合を付けたいから、とか?学園にいればいつでも会えるような気もするけど。ああでも、生徒会長だと中々そうはいかないのかもしれない。
ふわふわと思考を遊ばせて、うん、と頷きを返す。いけない、なんだか眠くなってきてしまった。でも先に、床の掃除だけでも済ませておきたい。
目線で少しだけ土汚れのある床を追う。最近は雨も降ってなかったし、汚れも乾いた土と埃がほとんどだろうから、そう時間はかからないはず。眠ってしまう前に終わらせないと。汚れは後に回せば回すほど面倒になるんだから。
「掃除は俺がやる。……首、見せろ」
やってくれるなら任せるけど、と寝惚けた思考で洋輔を見上げる。指先を一振りしただけで彼は廊下の掃除を終わらせてしまった。あれまぁ。実践魔法ってやつかな。俺まだ習ってないんだよね。一年生の実技はとにかく魔法の出力を安定させる訓練ばかりで。もう少ししたら俺にもできるようになるだろうか。そしたら掃除が楽になるんだけど。
脇に逸れた思考に気が付くことなく考え続けていれば、洋輔の指先が俺の顎を掴んでくい、と上向きにした。と思うと自分はソファに座る俺の前に膝を着いて、喉元……印のある部分を覗き込んでくる。
変なの。先輩にされた時はこんなに心臓が苦しくならなかったのに。こわくはあったけど、胸が高鳴りはしなかった。洋輔は逆だ。何の不安もない。でもドキドキはする。触れているカサついた指先が、俺の肌の上を這っていくだけで眠気なんて吹き飛んでしまった。興奮と、期待と、でも何も起こらないんだろうという少しの諦観。ああでも、もし番の契約が解除されたらどうしようとは、少しばかり思わなくもない。
番の契約は、結ぶのも解除するのも本来双方の合意があった上でしか行えないし、行政への届け出も必要だ。未成年なら保護者の署名も。でも、主側の人間が強力な魔力を持つ場合にのみ、極稀に無理矢理に番契約の締結、解除を行うことが出来るという話も都市伝説程度に耳に挟んだことがある。洋輔は大変優秀な龍種の血を引く人間で、俺の主。だから、それが本当になってしまうのではないかと、いつもほんの少しだけの不安を胸に抱いて、俺はこの学園で生きている。
「っ……」
洋輔の両の手が俺の首元に添えられる。ゆるゆると指先で包帯の上から印の上を撫で、時折緩く爪を立てる様になぞられ、息を乱す俺を揶揄うように喉仏を擽られる。意味が分からない。喘ぐように息を吐き出しても、何の音も出てきやしない。この呪縛印は俺の声帯をどうにかするものではなくて、俺の口から漏れる音が無になるようにできているのだ。ざっくり言えばミュート機能。だから、俺がどれだけ呼吸を乱しても、俺が悲鳴をあげても、誰にも何にも聞こえやしない。それなのに。
洋輔は的確に俺の弱点を指先で虐めてくる。擽ったくて身を捩ったり、肩を震わせたりしているから、多分そこで見破られているのだろうとは思うけど。それにしたって、的確過ぎる。
「……俺以外に、触れさせるな」
包帯越しに、喉仏をかぷりと甘噛みされる。本能的な恐怖と、色欲を伴う痛覚が合わさって俺はびくんと大きく身体を跳ねさせた。それすら許さないとばかりに洋輔の両の腕が強く俺の身体を拘束する。次の瞬間、喉元から膨大な魔力が流し込まれて、俺の身体は最早痙攣と言っても良いレベルで震えはじめる。急性アルコール中毒って、こんな風なのかもしれない。
自分のキャパシティ以上の魔力に意識が混濁して、どこかへ飛んでいきそうな感覚が恐ろしくなった俺は洋輔の腕に縋りついた。返事の様にぎゅうと強く身体を抱きしめ返されて、安堵した俺はほう、と溜息を吐くと落ちてくる瞼に逆らうことなく全身の力を抜く。温かい。ここなら大丈夫。この腕は俺を傷付けない。
後から思えば何の根拠もない。だけどこの時はこれ以上なく安全な場所にいるのだと心の底から安心して、俺はそっと意識を手放したのだった。
ともだちにシェアしよう!

