8 / 12
R18※ 7.された相手が「この事態、たぶん俺のせいだから」と言った
「……もう、出る……離せ」
「出せばいい」
「……や、マジで……!」
亜紀は藻掻くが、たいした抵抗ではない。
「あんまり暴れると噛んじゃうよ」
「くっそ、おまえがやめれば済む話じゃないですか……!」
垂れ流れそうになった唾液を、じゅ、と思いきり吸い上げる。
「──っ! ……あっ……はる、ひこ……!」
耐えに耐えて、でも無理だった、という声。
呼んだのは、拒否するべき相手の名。
なんだそれめちゃくちゃかわいい
もう自分でもわかる。歯止めがきかない。きくわけがない。
彼の声よりよっぽど大きな音を立てて、はちきれそうに勃起している陰茎を虐めた。どろどろに濡れた中指で、アナルを押す。
入ってしまうか、そうでないかのそこを、優しく撫でる。
やがて口のなかに溢れ出てきたものは、いとも簡単に飲み込めた。
亜紀の息遣いだけが部屋に響く。
彼は天井を見ている。
春彦は動けないでいた。
いまのこの状況を、ただ茫然と過ごすしかできない。
でも、なにか言わなければ。
「……亜紀……、」
「春彦」
亜紀が言った。遮るように。
「俺……」
「──謝るな。謝ろうとしたよな? 謝んなくていい」
「…………」
亜紀が身体を起こす。ワイシャツは肩から落ち、髪は乱れている。
それこそ、乱暴されたあとみたいだった。謝らなくていいわけがない、のに。
「……洗面所を使え。それで全部整えろ。抜くなら抜いてこい。俺もあとで着替える。おまえのほうが先に出なくちゃならないから急げっていうだけだ。早くしろ。歯も磨け」
時計を見る。亜紀がここに来てから30分は過ぎている。
春彦は頷き、無言で洗面所に向かった。この施設には大浴場があるが、各部屋にもユニットバスがある。
反省すべきなのに、ふわふわして思考がまとまらない。なにも考えられない。急に罪悪感に襲われたり、あるいは「これは現実か」と疑ったり。まともな思考ができないまま、手を洗い、乱れた髪をセットし直した。そのうちに股間も落ち着いてしまい、抜く必要はなかった。
亜紀はスラックスを履き、ノーネクタイのシャツ姿でベッドに腰かけている。 ベッドのシーツはぴしりと伸ばされ、まるでさっきのことなどなかったようだった。
「大丈夫か、春彦」
亜紀がそう言った。
大丈夫か? 逆じゃないのか?
心配されるべきは亜紀のほうでは?
「……俺は全然……むしろおまえのほうが」
「俺も平気。なあ、夜、ここでちゃんと話そう。この事態、たぶん俺のせいだから」
「……亜紀、の?」
「そう。たぶんっていうか、間違いなくね」
「…………」
「ほら、ここに座れ」
亜紀が隣をぽんぽん叩く。言われた通りに腰かけると、彼は春彦が行為の途中で椅子方面に投げたネクタイを取り、首に回して結んでくれた。きっちりと、とても綺麗な形に。
「ありがとう」
「ん。夜までいったん全部忘れられるか? 切り替え、できるか」
「ああ。なあ、なんでおまえのせいになるんだ……?」
「俺が、おまえを振り回してるから。まともな返事をせず、なのに離れもせず」
「…………」
「こうなると、夜ふたりきりになれるのは助かるな」
「……助かる? またこんなことが起きるかもしれないのに?」
亜紀はきょろりとこちらを見上げて、それから首を振った。
春彦には、それがどういう意味なのかよくわからなかった。同じことは起きないと思ってくれているのか、起きてもいいと思ってくれているのか。
いずれにせよ春彦自身に都合がよすぎて、亜紀にとっては不利でしかないと思うのだが。
それでいてこの暗さのない表情。だから理解できない。
救われいる、ということしかわからない。
「さて。春彦、もう行けるか?」
「……ああ」
「暗い顔はやめろよ」
そう言うと、亜紀は手にしたままのネクタイを少し引っ張った。
春彦がそれに任せて顔を寄せると、唇に唇が触れた。
彼からしてくれる初めてのキス。
驚いた。とても。
「亜紀……」
「いつものおまえで行け。カラ元気でもいい。見かけだけでもいい」
春彦は、自分は変わってしまったのだ、と思った。もう、以前の自分には戻れない。それはこの男への恋心を知らない自分だ。別に戻らなくていい。戻りたくもない。
だが、見かけだけは一切変えずにすべてを熟してみせる自信がある。
亜紀がこう言うのだから。ここまでしてくれるのだから。
「行ける。行けるよ。ありがとう、亜紀」
「ん」
ともだちにシェアしよう!

