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14.かなりはっきりした宣戦布告とニョロニョロ色のパジャマ

──研修2日目の夜/春彦視点       春彦が部屋のドアを開けると、廊下には宮島が立っていた。 「どうも、部長。うわあ、めっちゃリラックスできてる感じですね」 もちろん冗談である。昨夜と同じように、部屋では2組にわかれてのセッションが続いていた。春彦と北河くん、亜紀と、亜紀に近づきすぎる青木くん。 「まあな。非常に盛り上がっている」 と、盛り上がっていない顔で答える。 「露骨にそういう顔をしないでくださいよ。ねえ、今日の亜紀さんのパジャマは何色ですか」 「ニョロニョロ色」 「ニョロニョロ色? なにそれ見たい」 「見せない。ちなみに、ここにスナフキンじゃなくてムーミンがいる」 春彦が胸ポケットの位置を指して言う。 「昨日のと同じシリーズのパジャマだ。亜紀さん、お気に入りなんだね」 「そうらしい。ところでなにか用か? 北河くんを待たせている」 宮島がにやりと笑い、白いレジ袋を春彦に突き出した。 「これ、なんだ?」 受け取ったレジ袋は、ずっしりと重い。 「あのふたり、かなり酒に弱いらしくて。彼らの同期がにこにこしながら教えてくれた。店で寝ちゃうから、呑ませすぎないようにみんなで気をつけているそうです。いい子ばかりだ」 「それが……?」   話が見えない。宮島はこう続けた。 「そこで。この宮島が、ビールとツマミ各種をご用意しました。よく冷えていて美味しいですよ。あの子たちに多めに呑ませて、先におねんねしてもらってください。もちろん部長と亜紀さんも呑んでいいけど、遠慮ぎみでね」 「つまり?」 「わからないかな? 邪魔者を酔い潰して、亜紀さんとふたりきりの時間をつくってくださいってこと」 「……ちょっと汚い作戦だな。漫画みたいだ」 「それは承知の上ですよ。だけど、俺にはこれくらいしか思いつかなくて。あの子たちを連れ出す方法も考えたけど、不自然だし。明日に響かない程度に呑んでもらって、うまく寝付かせてみて。漫画みたいでもなんでもいいでしょ」 それで、ちゃんとふたりで話したほうが絶対にいいです、と、宮島は急に真面目な眼をして言った。ハーフアップにしたいつもの髪型、いつもの口調。眼だけが、違う。 「……亜紀がなにか言ったか」 「はい。早く夜になってほしいって。俺は弱音と受け止めましたが、あなたがそれをどう取るかは任せます。でもね、あんまり油断しないほうがいい」 「油断?」 「あんたじゃ亜紀さんは無理だなと思ったら、俺、もっと本気で頑張っちゃうし」  春彦は、一瞬息を呑んだ。 この男からの、これだけ明確な宣戦布告は初めてだ。 「はっきり……言ったな」 「ええ。部長ならいいかなって。すごく信頼してますから」 「それは、どうも」 「はい。ただ、俺はあんたと違ってノンケじゃないんで、そういう意味で本気を出すと言ったら、本気だよ」 春彦の背後から3人の笑い声が聞こえた。 空間は繋がっているのに、むこうとこちらとでは空気が違うような錯覚。 「なるほど」 「言っちゃってすっきりした。ちゃんとした『恋愛モード』に入ったら、俺って結構強いです。そうなる前にがんばって」 「……わかった。お気遣いありがとう。コレの代金はあとで払う」 「いえいえ、いらないですよ。貰ってください」 「じゃあ、今度なにか奢る」 「……あの、奢らなくて結構ですんで、その代わり亜紀さんのパジャマ姿の写真を送ってください。ほら、ニョロニョロ色というのがどんなのか知りたいから」 爽やかに微笑む宮島。 春彦はただ首を横に振った。 「ちょっと気持ち悪いくらい無表情だね。でも言いたいことは全部わかるからすごい」 ……というセリフを全部聞き終わるまえに、春彦は部屋のドアを閉めた。 レジ袋には、缶ビールが8本と、なかなかよさそうなツマミが何種類か入っていた。ビーフジャーキーはあの牧場のもので、お安くはなさそうだ。「敵に塩を送ることにしかならないが、いいのだろうか」とは思うが、「既に送られた塩」はもう自分のものなので、遠慮なくいただくことにする。 あの男が言う「本気を出すと言ったら本気」。それはきっと、嘘ではない。

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