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R18※ 18.全国の成人男性にアンケートを取りたい

はあ? ……という顔で春彦がフリーズした。春彦だけを見ていると世界の時間が止まったように感じられるが、亜紀は瞬きも呼吸もできたので時間は確実に流れている。止まったのは春彦の時間だけだ。 亜紀が頭のなかでゆっくり5秒数えて、その後。 「はああああ?」 春彦が素の声で言った。自分の口から出てしまった声の巨大さに驚き、慌てて北河くんと青木くんのベッドを確認する。変化はない。 「おかえり……戻ってくるの、時間かかったね……」 「ただいま。落ち着け」 「はい。俺は落ち着いてるけども。動揺してるのは君」 「……いや……だって……おまえ、とんでもないことを言うな?」 「ひとのこと言えないでしょ。昼間の俺の気持ちを理解してよね」 亜紀にとって不思議なのは、それがイヤじゃないこと。してあげてもいいなと思えてしまうこと。こいつが相手なら、この手のなかにあるコレなら……と思ってしまう。 「……全国の成人男性にアンケートを取りたい」 春彦が言った。 亜紀は、自分の頭の上に大きなクエスチョンマークが浮いたのがわかった。 「……俺にもわかりやすくお願いします」 「この状況で……断れる成人男性が全国にどれくらいいるのか、割合を知りたい」 「ああ、そういうことね。相当な人数が『わからない』にマルをつけるだろうよ。それはそうとして、俺はここにいるn=1の答えがわかればそれでいい」   春彦は目を閉じ、「ぐ」とか「う」とか言いながら首を傾げたり上げたりしている。 「あのな、亜紀……俺は、おまえにキスしたり触ったり入れたりしたいけれども」 「よく知ってる」 「それはどうも。だけど、それは次のことなんだ。あくまでも。本当は、そういうのができなくてもいいんだ。……クソ、こんなの、説得力がなさすぎるとは思うが」 「うん……でも、わかるよ」 「…………」 「わかるから、安心してご提案してみてる」 カードは手放したくない。安易に恋人にはなれない。 「絆された」だけだとは思いたくない。思われたくない。 だから、いま身体の関係を差し出すのは、とても卑怯なことだ。 ──でも、この男の関心は独占していたい 春彦はなにも言わない。アンケートのことを考えているのか、別のことを考えているのか、なにも考えられなくなっているのか。 「……いいよね? して、みるね」 「…………」 「うまくできる保証はまったくないよ。俺、君ほどは経験がないので」 実は、「付き合った相手」だけは、結構多い。モテると言っていい部類に入る。彼女たちはみんな、「亜紀くんといると楽しい」と言ってくれた。亜紀から告白しなくても、誰かしらの相手は常にいたのだ。少なくとも、春彦と組む少し前までは。 ただ、誰が相手であろうと、情熱的な自身を見ることはできなかった。「ぶつかり合い」と言えるような恋愛の経験などない。迷ったら別れた。困ったら友人に戻った。行ったり来たりができるラフな関係性はとてもラクで、ある意味、真剣になるのはばかばかしいとも思っていた。自分から袋小路に入ってしまわなければいいだけなのだ。 しかし、この男はどうだ? いまの俺はどうだ? 考え始めると止まらなくなる。いまはまず動かないといけない。 「コレ脱いで座ってくれる? もちろん下着もね」と春彦が穿いているジャージをつまむ。「で、そっちによりかかって。青木くんたちの方、一応見ててね。起きそうもないけど」 「なあ、亜紀……ホントにか?」 「もうやるって決めたから。はよ」 「…………」 おずおずと春彦が身体を起こす。ジャージのズボンに手を掛けてしばらく止まっていたが、やがて意を決したように脱いで、どっしりと座った。 向かい合って座る。どうにもそそり立つソレから眼が離せない。暗がりでも無理。 「いや、デカ」 「それはさっきも聞いた。同じ感想はもういらない」 「いや……だってこのデカさじゃ……君、俺の見て絶対『ちっちゃ』って思っただろ。間違いなく思ったよね? コレが基準だもんね?」 「──はぁあ? いやいやいやいやいや決してそんなことは。へっ平均より大きいのではないかと……マジでそんなこと思いつきもッ──」 春彦はそこまで言ってから「ぶふぉ」と声を殺しつつも吹き出して、そこから立て直せずに半分笑った口元のまま、「なあ、いまってこんな話をしてる場合なのか?」と近くのボックスティッシュに向かって訊いたりしている。 「信じてくれ、亜紀。俺は自分のコレをそこまで高く評価していない」 「ふん? まあいいよ。では、失礼しますね」 「無理しなくていいからな。本当に」 「無理ならご提案しないよ。もう君は黙ってて」 「……はい」 両手で握り込み、そっと手を上下させる。まだ成長の見込みがある気がしていたが、やはりその通りだった。ぎゅい、という感じで「竿」が伸びる。 こいつはコレを俺に入れようとしてるのか……とんでもねえな…… ……などとも思うと怖い気がするのに、どうにも尻のあたりがむずむずする。なぜだ。 柔らかに握って擦り続けるうちに、春彦が目を閉じた。薄く開いた唇から息を吐き出す顔が、ひどくセクシーだ。その辺のAV男優なんて敵じゃない。 闇に眼が慣れてしまい、陰茎の隅々までがしっかり見える。ぷくりと膨らんだ液体の玉が垂れてしまいそうになるのを見て、もう覚悟を決めた。頭を下げ、まずその液体を舐め取った。手のなかのものが、生きものみたいに反応する。 正直、イヤな感じは、しない。自分でも驚くくらい、嫌悪感はゼロだ。舌で触れるこの弾力はなにかに似ている気がするが、思い出せない。なんだろな……とか思いながら、とりあえず舐めて濡らしていく。 「……はい、ありがとう。もう大丈夫です」 春彦が揺れた声で言う。これで終わりにしようとしているらしいが、首を振る。これのどこが大丈夫なのか。 咥え込めそうなので、咥えてみる。 いや、デカ……! ……と、また思う。していただいた/された経験のあるほうの知識として、こういったものは口を窄めてキツくしてあげると気持ちがいいはずだが、それどころじゃない。そんな空間の余裕はそもそもなく、口のなかがいっぱいになってしまう。なんとか首を上下させて動かせる程度だ。あと、ちょっと舌を動かすとか。できる工夫をするしかない。 ──とりあえずここはいつも通り冷静に取り組めばいい そう思ったところで、はっとする。「いま俺、冷静になろうとした?」と。いままでの彼女さんたちとするときは、がんばらなくても冷静だった。逆に、夢中になれない。没頭できない。いつもどこか冷めた自分がいて、まあそれでも喜んでもらえるのならよかった。 でも、この男にされるときは違った。くっきりすぎる愛情に思考が塗り潰されて、なにも考えられなくなる。触れられた場所の感覚だけを追って、夢中で、没頭していて。 そしていまも、なけなしの冷静さに縋らなければならないほどふわふわしている。 否応なしにあの感覚を思い出し、身体の腰の奥がぞわぞわする。 「……亜紀」 ふいに呼ばれ、春彦に頭を撫でられ、びくっとしてしまった。 耳にも触れてくる。ぞわぞわが広まってきてしまう。 頬の内側に、喉の奥にゴツゴツぶつかるものが、腹のなかにも入ってくるのかと想像すると、特に、ひどい。 冷静になれない。 部屋がとても静かで、自分が立てる音だけが異質だから、余計悪い。 耳の奥に指が差し込まれるたび、息を吐き出さなければならない。首筋を撫でられるたびに反応しすぎないよう構えなければならない。自分が立てているはずのぐちゅ、という音に、耳を塞ぎたくなるような羞恥に、耐えなければならない。 あき、と、また優しくて低い声が自分を呼ぶ。 愛おしい、と指先が伝えてくる。 気持ちいいよと思ってくれているのも、ちゃんと届く。 熱い。顔が。自分の身体が。 コレがこれだけデカくなる理由を思うと。  ──だめだ、苦しい 「春彦……ごめ……俺……、」 コトは完了していないが、顔を上げた。 唇の端から唾液が派手に垂れたのがわかったけれど、それどころではない。 「どうした、大丈夫か。だから無理なくと……」 違う。苦しいというのは、決して咥えていたものがデカすぎてあごが痛いとか、息ができないとか、そういうことでなく。 「──や、なんか……」 「どうした?」 「……俺……勃っちゃって……」 春彦の眼がそこに向き、思わず股間を腕で隠す。無駄なのに。 「…………」 「ヘンだよな、俺も、ってのは」 亜紀は笑って誤魔化したつもりだった。 春彦は無言。亜紀はただ、見つめられている。 ひとり、やりようのない気まずさと戦っているそのうちに。   ベッドが軋んだ。

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