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26.完璧な据え膳

仰向けのまま固まっている春彦に、亜紀が「ねえねえ」と不思議そうな顔で訊いてきた。例のきょろっとした眼だ。とても可愛い。 「なに」 「君さ、チャンスさえあればぐいぐい行くってスタンスじゃなかったの? こんなチャンスの塊みたいな場でなぜ……」 「俺にもわからん。きっと、人間というものは結構複雑なんだ」 「あっ……もしかして、逆にぐいぐい来られると引くみたいな──」 「──引きません。大歓迎です」 被せる勢いで否定。これは即答できる。 「よかった。なら遠慮なく」 「え」 「よいしょっと」 「ええ」 亜紀が、春彦の腰のあたりに馬乗りになった。あの晩と同じ体勢だ。 布団を肩に掛けてはいるものの、やはり裸だ。最後の1枚はここからの視界に入らないが、別のいろいろなものが飛び込んできて目のやり場がない。特に、胸の上にあるぽちっとしたものがヤバい。 「おまえ……なにを」と、おまえ本体がいないほうに目を逸らして言う。 「へへ。ラッキースケベ再来だね」 「いや……、あれと比べても条件がはるかによすぎる」 人間、裸のひとが自分の上に乗ると、これは裸だとわかるものである。確かに裸だ。布と布が擦れる摩擦がなにもない。肌の温度が近い。 「亜紀、残念ながらもう無理だ。いっそのこと俺を投げ飛ばせ」 「あのねえ……さすがに無理だし……それに、さ」 「それに……なに」 「…………」 ──なにかが違う 春彦もそう気付いた。 いつもより、掠れた声。妙にテンションの高い亜紀。 「亜紀……」 「……襲われたって投げ飛ばさない。俺が春彦を投げ飛ばさないのはさ、『投げ飛ばせない』じゃなくて、『投げ飛ばす必要がない』からだよ」 彼はそう言うと、そっと春彦の胸板にこてんと頭を落とした。 「それでいいのか……?」 「うん。あの……これを以って保留していた告白のお返事とさせていただきたく……」 「裸なのも含め?」 「裸なのも含め……うん、そういうことになるのではないかと」 「いけにえ的な……?」 「いや、いけにえ的なのとはちょっと違うけど。決してしょうがなくとかじゃないんで……あ、ねえ? ちゃんと頭回ってる?」 「なんとか回そうとはしている」 回ってはいるが、適切に回ってはいない。一度はめ込んだパズルのピースを合っているのに外してみたり、書き直すために消しゴムで消したのに、また同じことを書いたりしている。あくまでイメージとしてだが、そんな感じ。 でも、触れる権利は与えてもらったのだと、それはわかる。 亜紀の指に触れた。胸にあたる息が熱いのに、指先は冷たい。 春彦はその指を温めるように掴んだ。 「じゃあ、もうちょっとわかりやすく」 亜紀がまた顔を上げた。 自分の顔が映るくらい、黒い瞳が近くにある。静かに、唇に唇を重ねてくれた。 「…………」 「俺もね、君にキスしたり触ったり、入れ……られたりしたいのだよ。好きだから」 俺だってそういうのは次のことだけど、したいと思うのは自然なんだよ。 そう言ってくれる声は、揺れている。仕事中ではほとんど見ることのない、いまだけは誤魔化しきれない、彼の緊張。 「わかった。完全に理解した」 「……ん。ほんとごめん。俺のせいでいっぱい考えさせて」 「いい。構わない」 亜紀は「へへ、恥ずかしいですね」と笑うと、またキスをしてくれた。 夢中になって舌を絡ませ、密着し、肌に触れ──たら、想定外のものに触れた。 「亜紀……、最後の1枚、本当に穿いてるのか」 そのはずだが、いま自分の手にあるのは、どう考えても亜紀のナマ尻である。つるっとしている。小さいが、もきゅっとしたいい弾力がある。 「……ん? うん。靴下を。だから、正確に言えば2枚?」 「くつした?」 「や、ほら君、すんごい器用に俺のズボンとかは脱がせるけど、靴下はそのままだったからさ。そういうのが趣味なのかなと……とか言ってるうちに、すんごいケツ揉むじゃん……」 全裸に靴下残し。 特段そんな趣味はない、が。 「そういうのも悪くないな。襲うぞ」 「いーよ。完璧な据え膳ですからね」 いつものふたりで交わすような、ふざけた会話。 楽しくて、そして嬉しすぎてほんの少し涙ぐみそうになったのは、内緒だ。 ※次回R18

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