27 / 28
26.完璧な据え膳
仰向けのまま固まっている春彦に、亜紀が「ねえねえ」と不思議そうな顔で訊いてきた。例のきょろっとした眼だ。とても可愛い。
「なに」
「君さ、チャンスさえあればぐいぐい行くってスタンスじゃなかったの? こんなチャンスの塊みたいな場でなぜ……」
「俺にもわからん。きっと、人間というものは結構複雑なんだ」
「あっ……もしかして、逆にぐいぐい来られると引くみたいな──」
「──引きません。大歓迎です」
被せる勢いで否定。これは即答できる。
「よかった。なら遠慮なく」
「え」
「よいしょっと」
「ええ」
亜紀が、春彦の腰のあたりに馬乗りになった。あの晩と同じ体勢だ。
布団を肩に掛けてはいるものの、やはり裸だ。最後の1枚はここからの視界に入らないが、別のいろいろなものが飛び込んできて目のやり場がない。特に、胸の上にあるぽちっとしたものがヤバい。
「おまえ……なにを」と、おまえ本体がいないほうに目を逸らして言う。
「へへ。ラッキースケベ再来だね」
「いや……、あれと比べても条件がはるかによすぎる」
人間、裸のひとが自分の上に乗ると、これは裸だとわかるものである。確かに裸だ。布と布が擦れる摩擦がなにもない。肌の温度が近い。
「亜紀、残念ながらもう無理だ。いっそのこと俺を投げ飛ばせ」
「あのねえ……さすがに無理だし……それに、さ」
「それに……なに」
「…………」
──なにかが違う
春彦もそう気付いた。
いつもより、掠れた声。妙にテンションの高い亜紀。
「亜紀……」
「……襲われたって投げ飛ばさない。俺が春彦を投げ飛ばさないのはさ、『投げ飛ばせない』じゃなくて、『投げ飛ばす必要がない』からだよ」
彼はそう言うと、そっと春彦の胸板にこてんと頭を落とした。
「それでいいのか……?」
「うん。あの……これを以って保留していた告白のお返事とさせていただきたく……」
「裸なのも含め?」
「裸なのも含め……うん、そういうことになるのではないかと」
「いけにえ的な……?」
「いや、いけにえ的なのとはちょっと違うけど。決してしょうがなくとかじゃないんで……あ、ねえ? ちゃんと頭回ってる?」
「なんとか回そうとはしている」
回ってはいるが、適切に回ってはいない。一度はめ込んだパズルのピースを合っているのに外してみたり、書き直すために消しゴムで消したのに、また同じことを書いたりしている。あくまでイメージとしてだが、そんな感じ。
でも、触れる権利は与えてもらったのだと、それはわかる。
亜紀の指に触れた。胸にあたる息が熱いのに、指先は冷たい。
春彦はその指を温めるように掴んだ。
「じゃあ、もうちょっとわかりやすく」
亜紀がまた顔を上げた。
自分の顔が映るくらい、黒い瞳が近くにある。静かに、唇に唇を重ねてくれた。
「…………」
「俺もね、君にキスしたり触ったり、入れ……られたりしたいのだよ。好きだから」
俺だってそういうのは次のことだけど、したいと思うのは自然なんだよ。
そう言ってくれる声は、揺れている。仕事中ではほとんど見ることのない、いまだけは誤魔化しきれない、彼の緊張。
「わかった。完全に理解した」
「……ん。ほんとごめん。俺のせいでいっぱい考えさせて」
「いい。構わない」
亜紀は「へへ、恥ずかしいですね」と笑うと、またキスをしてくれた。
夢中になって舌を絡ませ、密着し、肌に触れ──たら、想定外のものに触れた。
「亜紀……、最後の1枚、本当に穿いてるのか」
そのはずだが、いま自分の手にあるのは、どう考えても亜紀のナマ尻である。つるっとしている。小さいが、もきゅっとしたいい弾力がある。
「……ん? うん。靴下を。だから、正確に言えば2枚?」
「くつした?」
「や、ほら君、すんごい器用に俺のズボンとかは脱がせるけど、靴下はそのままだったからさ。そういうのが趣味なのかなと……とか言ってるうちに、すんごいケツ揉むじゃん……」
全裸に靴下残し。
特段そんな趣味はない、が。
「そういうのも悪くないな。襲うぞ」
「いーよ。完璧な据え膳ですからね」
いつものふたりで交わすような、ふざけた会話。
楽しくて、そして嬉しすぎてほんの少し涙ぐみそうになったのは、内緒だ。
※次回R18
ともだちにシェアしよう!

