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R18※ 27.拡張の義。セックスにお得さを感じられるか否か
春彦は以前から罪悪感に苛まれつつも男性同士のセックスについては調べ尽くしていたのだが、それに必要なものを買うまではしていなかった。
が、ちゃんと亜紀がドラッグストアで買ってきてくれてあった。
「あの続きをやる気まんまんだったので、すみませんね。新宿の店は夜もやってて便利だね!」などと言いながら、亜紀が台詞とは裏腹のドヤ顔でそれぞれを開封した。コンドームと、潤滑剤。指サックはさすがになかった。
それで、拡張の義である。
「……あの……さ、一度男を知ると、ヨすぎて戻れなくなるとか……っ……聞くけど、さ」
しばらくすると、亜紀がなにやら喋りはじめた。全裸だし(なお、靴下も脱がした)、一応えっちなコトは開始されているのだが。「麻酔なしなら手術中にも喋りそうだな」と春彦は思った。亜紀はオフィスでは物憂げに考えていることも多いが、春彦の前だと「とりあえず全部言ってみる精神」が全開なのだ。「なんでなんで」と繰り返す5歳児みたいで可愛い。
「よく聞くのか? まったく知らない」
「──んんっ……、俺も真相は知らんですけどね、そのくらいだと、なんか……っ、……お得な気分に……、んっ」
「実際、いま戻れないような気分になってるか? あるいはお得な気分に?」
「いや……いまは……全然戻れる。お得な気分とか、ない……」
「だよなあ……」
「でも、いーから……続けろ。手術かなんかだと思え」
「ちょうど手術について考えていた」
「なんでや」
「なんとなく。気にするな」
春彦は笑って、亜紀の引き締まった腹を撫でた。「くすぐったい」と亜紀も笑った。
開き直った亜紀は強くて魅力的である。ときどき動物系の動画で見るような、「1日で家に馴染んだ野良猫」並みに開放的に腹を見せて仰向けで、素直すぎるくらい両脚を開いてくれている。そして、繰り返すがいちおうセックス中だというのに、よく喋る。
春彦はできるだけ無理のないようにそこを押し広げながら、また指を増やした。自分の指を飲み込む様子に、幾度も生唾を飲む。ぬるぬると内臓を撫でているだけなのに、狭い穴に指が出入りしているだけなのに。それがまさしく淫靡なのだ。
「大丈夫か、キツかったらやめるが」
最初に比べればかなり拡がったが、亜紀は勃起もしていないのが気になる。
「……でもここでがんばらないとさ、そのデカちん……入らないでしょうよ。おい、そこの君は完勃ちしたらダメだからね? いい子で待ってろ」
亜紀が春彦の股間に言った。春彦でなく、春彦の息子に直接言ったらしい。完全に勃起していない状態が挿入に適していると知ったからである。春彦は脱いでいないが、立派なテントは張っていた。
「俺は別に挿れられなくてもいいが……ちょっといちゃいちゃできれば」
「……俺はしたい、もん。ちょっといちゃいちゃだけじゃなくて」
「ん、大歓迎だ。それなら続ける」
そう言って、春彦は浮いたままの亜紀の右脚の膝裏を持って支えてやった。
それで、彼の身体に侵入させていた3本の指の角度がついた、そのときだ。
「──あ、んっ!」
自分の声を聞いて、亜紀が目を見開いて硬直した。
あんっ、て言った。
「亜紀……いま……」
「ぎゃあ! 言うな」
「わざと?」
指は抜かないまま、確認。
「わざとなわけあるかあ! すげえ変な声、恥ずっ……!」
「いや、天使みたいに可愛かった」
「──天使て! ったく君はもう、そんなのばっかだよ……ていうか、天使が喘ぐシチュってなに? ねえ、春彦、聞いて、る……? あっ? ああ……!」
狙った反応を引き出せた。
よし。
「春彦? なに、した?」
微妙にひっくり返った声で亜紀が言う。
「理解した」
「は、はあ? ひとの身体を勝手に理解しないでくだ……っ、んんんっ!」
こりこりと硬い場所。前立腺というやつだ。理由はわからないが、いままでは巧く捉えられなかった。ちゃんとあるじゃないか、と、ちょっと元気になってくれた亜紀の陰茎に向かって心のなかだけで話しかける。確か、あまり触れすぎてもよくないはずなので、あくまでも指先でそっと擦るだけにした。それでも、亜紀の反応はとても強い。
「それ、マジやばっ……、あっ、──あ! 声、むり……!」
「無理でいい。ちょう可愛い。子猫みたいに。声、我慢しない方がいいんだよ。息を詰めないほうがね。合宿所じゃないから気にしなくていい。北河くんも青木くんもいない。ちなみに、ご存じの通り角部屋だから隣人もいない。思いきり啼いて」
「くっそ……言い方……! ──あ……んあっ」
「めちゃくちゃ可愛い。気持ちいいんだね」
「――んんん! ……ん!」
本人はそう言わないが(言えないようだが)、わかる。身体のなかにまで侵入させてもらっているというのは、なかなか恐ろしいことだ。
そろそろ挿入できそう、ではある。
「亜紀、体勢変えるか? 後ろからのほうが楽だというのはその通りかなと思うし」
春彦は、医療分野の書物やその界隈のプロが自己経験を根拠とする動画、果ては「なぜ女性がここまでご存じか」と感心するような男性同士の恋愛を描いた同人誌(DL版)まで、実にさまざまなものを見漁っていたため、知識にはわりと自信があった。
ちなみに、研修中に読んでいたのは中上健次の『賛美』だ。同人誌のそれと質こそ違うけれど、男性同士のセックスどころか、性のあり方そのものをぐちゃぐちゃ掘り返すような描写がこれでもかと詰め込まれている。
ただ、やはり実際に自分がやってみるとなるとなかなか違う。
「──後ろからはヤダ」
ほらね。
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