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R18※ 28.これは「受け」の表情ではない
やはり正論をぶちかますだけでは世界平和はやってこない。
過去を振り返っても反省すべきことだらけだ。
「だよな。四つん這いというのも逆にハードルが高いような……」
「だって、春彦の顔、見たい」
「え」
同人誌で3人くらいの「攻め」が言っていた台詞。つまり、自分たちのケースであれば自分が言うべき台詞である。しかしまあ、とはいえ同人誌だしね。
亜紀はちょっともじもじっとしてから、
「俺、実は君の顔も好きなんだよね……」
と、言った。
「は?」
「ごめんね。外見のことを言われるのはイヤだって知ってたんだけど。すごく好みだったらやっぱそれは……伝えたいじゃん」
「──大変申し訳ないがいまので完全に勃起した」
「ああ~~でもある意味自業自得」
なんとかなるでしょ、カモン、と亜紀が言ってくれたので、指からコンドームを外し、新しいパッケージを開け、結果的に悪い子になってしまった自分のそれに装着する。
先を押し付け、それからゆっくりと沈み込ませていく。時間だけはかけたからか、きちんと挿入することはできた。一般的な人間の身体として、ここがどこまでこういった行為に適応しているのかは、わからない。痛みも知らない。
だけど、彼はやめろと言わない。だからこそ慎重に。
「春彦……、どお?」
「うん……全部入った」
「嘘、だね」
「……なぜわかる」
「いや、もっとぐぐっと圧みたいなのが来る想定だった。なんか俺、いま平気だもん。ちょい痛いだけ。ですので、ご遠慮なさらず」
「いや、でもな……」
躊躇っていると、亜紀が手を伸ばし、春彦のそれに触れた。
いやらしくない、「確認モード」の指先だ。
「……わあ。全然入ってないよ。俺に見えないからって、騙したね」
「騙したというほどでは」
「じゃあ剣持くんは、3分の1売れたら『完売』って言うんですか?」
「……っ、すごくイヤな喩えだ」
「ふふっ。わざとだもん。ねえ、春彦……」
春彦の首に亜紀の両腕が回る。脚も春彦の腰に巻きつけた。
にやりと謎めいた笑み。とりあえず、読んだものの範囲では、「受け」の表情ではない。
ダメだな、やはり参考にならない。
「……もっと奥まで入ってきて」
「台詞がヤバイ」
「狙って、言ってる」
「では、遠慮はしない。キツかったら我慢しないで言えよ」
潤滑剤を足して、身体を沈ませていく。じゅぷ、と、気にしないでいられないくらいの音が響く。この男の身体のなかに入っているのだな、と思う。
「完売」(報告)
「おめでとう、ございます」
へへ、マイナスの距離だね、と亜紀が囁く。
「うん……そうだ……そうだよ」
「圧は、うん、すごいな……すごいけども……ふ、あ」
「まだ動かないほうがいいか」
「や……? 逆かも……、なんか、動いてくれたほうが……ほんのちょっと」
腰のあたりが落ち着かないようで、亜紀は「この、ケツの奥までなんかある感じが……まあ実際あるのか……わあ、未知の世界……」とか言いながら、もぞもぞ身体をくねらせる。
このもぞもぞが、わりとクる。すごく腰を動かしたくなる。「ほんのちょっと」のレベルを保つため、春彦は頭のなかで円周率を50桁くらいまでゆっくり数えた。「円周率もまさか自分がこういう使われ方をすると思わなかっただろうな」、と考えながら。
「あっ! なんかっ、ダメ」と、亜紀。
「ダメか。抜くか?」
「ちがう! 抜かないでもっとちゃんと動いて」
「そっちか。喜んで」
ベッドのスプリングを利用して、自分の身体を揺らした。
「――っ! ……ん! ……んっ、」
奥に押し込まれた陰茎が、身体の揺れに合わせてずるりと引き抜かれる。その勢いで、さらに奥にもねじ込んでしまう。待つつもりが、待てない。
でも。亜紀の反応は、悪くない。
なにせ、気持ちいいときの彼の顔は、もう何度も見ている。とろとろで、隙だらけで。本人に言ったら叱られそうだが、結構快感に正直だ。しかも、好奇心旺盛で恐怖心が少ないから、うまく受け入れてくれているのかもしれない。そういうところも実に愛らしい。
「あっ、はる」
「ん……なるほど、抜いて、腹に向かって突くのがいいか。……こう?」
「――ああ!」
「かわいい」
「…………まっ、まって、あ、あ、ちが、待たなくていんだけ、ど……あ!」
亜紀の脚は力を失って解けてしまった。それをかかえ込んで、自分の身体に密着させる。
肌と肌がぶつかる音が響く。
「わかってる。可愛い。俺、おまえの顔も身体も、全部好きだよ」
「……ぅあ、あ!」
「もちろん声も」
思う存分「可愛い」と繰り返していいというのは、とても幸せなことだ。
あの晩とは違う交わり。目に涙を溜めて夢中でしがみついてくる姿が、大きく揺れる腰が、彼もきちんと自分自身の快感を追っているのだと教えてくれた。
呼吸に合わせて、動きを速める。
それから、挿入したまま亜紀の身体を抱え上げた。もっと深くに、入る。
「はるっ……! これ、や、だ……! あぁ……!」
揺らすと、小さな身体がしがみついてくる。
そうすると、もっとしっかり入り込んでしまうのに。
「ごめんな。やめないよ」
「んあっ、あ、あ」
「奥に……入ってきてって、亜紀が言ってくれたから」
「──あ………!」
「……亜紀」
変わったのは、この男と出会ってからだと思う。
それまでの自分がろくに目を向けてこなかったものが、強く光り輝き出したのだ。
自身の関心に関係なく、まあまあハイクラスでやってこれたのは恵まれていたと言えるが、物事に夢中になるということはなかった。
言ってみれば、「退屈しないための努力と苦労」のほうが必要だったのだ。
くっきりと輪郭を持ったものに囲まれていると、本当に退屈しない。
だから毎日が楽しい。
この男が自分の風景のなかに存在してくれたからだ。
あまりにも「この男だったから」が多すぎる。
亜紀の目尻から落ちた涙をキスで受け止めて、可愛い、とまた囁いた。
†
このようにして、ふたりの長い研修の日々は終わった。
でも、例によってこの話はもう少しだけ続く。
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