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カズヤ(攻)♡ヨウコウ(受)←偽同盟

——ツー、ツー、ツー。 「切れちった……」  カズヤは通話の切れたスマホをしばしの間見つめていた。  画面の中の時計だけが、ただ進んでいく。 「……やべ、会社、行かなきゃ」  カズヤはカバンを掴み、逃げるように部屋を出た。 ◇  夜。仕事を終えたカズヤは、コンビニでストロングゼロを何本も買うと、自分の部屋へと向かって行った。ヨウコウが今夜帰ってくるのか、その答えの出ない問いをアルコールで誤魔化すつもりだ。  薄暗い1DK、一人テレビをつける。画面の中でバラエティ番組の笑い声が遠く聞こえるが、カズヤの視線は時計の針へと向かっていた。 (……いつもだったら、そろそろ店が終わって帰ってくる時間なんだけどな)  ガチャリ。  玄関のドアが開き、カズヤは弾かれたように顔を上げた。 「……ただいま」  靴を脱いで部屋に入ってきたのは、ひどく気まずそうな顔をしたヨウコウだった。 「……もう、帰ってこないかと思った」 「なんだよ。帰ってこなかった方が良かったって言ってんの?」  居候の分際で、ヨウコウはムキになったように強がって見せた。そしてカバンを床に放ると、ドサリとベッドに腰を下ろした。しばらくの沈黙の後、ヨウコウがぽつりと口を開く。 「今朝は、俺ちょっとどうかしてた。なんか、岡本さんのことになると俺、ムキになっちゃうんだよな」 「……あぁ」 「でもさ……これからも俺たち、とりあえず一緒に暮らしていかなきゃいけないだろ」 「あぁ」 「……」 「……」 「なんか、気まずいな」 「……酒、あるぞ」  プシュッ、と炭酸の弾ける音が部屋に響く。 「おつかれ」 「おつかれ」  アルコール度数9%が、空っぽの胃に落ちていく。狭いシングルベッドの上に並んで座り、缶を傾けながら、自然と話題は「あの男」のことになった。 「……結局、あの人は誰でもいいんだよ」  ヨウコウが一気に缶を飲み干す。 「ま、俺たち遊ばれちゃってる訳かもな」  カズヤの言葉に、ヨウコウは大きく頷いた。ストロングゼロの酔いが、二人の頭を少しずつ麻痺させていく。カズヤは隣で赤ら顔をしているヨウコウを見た。 「なぁ、ヨウコウ。……今度は、俺たちの番じゃね?」 「は?」 「あの人、いつも余裕ぶってるけど……ちょっと仕返しね?」  その言葉に、ヨウコウは悪戯を企む子供のようにふふっと笑った。 「マジそれ、いいじゃん」  空になった缶が、コツンと床に転がる。 「俺たちが本当は仲良いってとこ、あの人に教えてやろうぜ」  カズヤの提案に、ヨウコウは力強く頷いた。 「いいよ。……じゃあ、練習な」  ヨウコウが笑いながらカズヤの肩を押した。カズヤはその手を掴むと、勢いよくヨウコウをベッドに押し倒した。 ♡ 「だめだよ……」 「なんで?」 「汚れちゃうから……」 ♢ ——チュン、チュン。  窓の外で雀が鳴いている。 「行ってくるな」  スーツに着替えたカズヤが、玄関で靴を履きながら振り返った。ベッドから顔を出したヨウコウが、眠そうに目を細める。 「……おう、いってら」 「じゃあ、今夜は作戦通りな」 「おう、任せとけって」  カズヤが部屋を出ていく。ヨウコウは二度寝をしようと目を閉じたが、その時、枕元のスマホが震えた。画面には『岡本』の文字。 「……もしもし」 『あ、ヨウコウ。今日、店開ける前にランチ一緒にどうかと思ってさ』 「あー……でも、今日はちょっと……」 『どうした? 何か用事? ……だけど、夜は仕事、来てもらわないと困るよ』 「……わかりました。行きます」  昼過ぎ。ヨウコウが指定された店へ向かうと、岡本は既に待っていた。食事を終えた頃、岡本が身を乗り出し、テーブルの上のヨウコウの手に自分の手を重ねる。 「この前の、あれな、ちょっと嬉しかった。『俺じゃなきゃヤダ』ってあれ」 「それは……」 「こいよ」  岡本の指がヨウコウの掌をなぞる。昨夜カズヤと熱を帯びて誓い合ったはずの「作戦」が、岡本の体温に触れた瞬間、足元から音を立てて崩れていく。 ♢  夜。カズヤは仕事を終え、高鳴る鼓動を抑えながらバーの裏口の階段を上った。  作戦通り、二人の姿を岡本に見せつけるために。 (……ヨウコウ、鍵開けとくって言ってたな) 「ヨウコウ、入るぞ……」  音を立てずにガチャリとドアを開ける。しかし、そこでカズヤが目にしたのは、作戦を実行するはずの相棒が、標的であるはずの男と肩を寄せ合い、画面に向かって熱狂している光景だった。  カズヤは心臓の鼓動が耳元で鳴るのを感じながら、ドアのノブをゆっくりと戻し、わずか数センチの隙間から部屋の様子をじっと見つめた。  二人はソファに並んで座り、大型モニターで格闘ゲームに興じている。作戦の気配など微塵もない。カズヤの存在すら完全に忘れ去られた空間で、ヨウコウは心底楽しそうに笑い声を上げていた。 「あーっ! クソ、また読み負けた!」  コントローラーを握る岡本が、余裕の笑みでヨウコウの肩に寄りかかる。 「ほら、隙だらけ。……言っただろ、こんどは罰ゲームな」  その低く甘い声に、ヨウコウは顔を真っ赤にして岡本を振り向いた。 「ちょ、待って! それはちょっと無理っすよ!」  口では嫌がりながらも、その瞳は熱っぽく潤み、岡本の仕掛ける「罰ゲーム」への期待に満ちていた。それは、昨夜の安っぽいストロングゼロの酔いや、作戦という言い訳だらけのじゃれ合いとは違う、大人の男同士の濃密な関係そのものだった。  ドアノブを握る手に、白く血の気が引くほど力がこもる。カズヤは声を荒げることも、その場から立ち去ることもできず、半開きのドアの隙間から、憎悪に満ちた冷たい瞳で二人の姿をただ静かに睨みつけ続けていた。 つづく

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