9 / 12

マウントコール(カズヤ→ヨウコウ)の後のカズヤ(攻)♡ ヨウコウ(受)

 店舗脇の非常階段。ヨウコウは息を切らしながら、暗い鉄の階段を駆け上がっていた。  着信を拒絶された事実が、ヨウコウから冷静さを奪っていた。施錠された裏口のドアを横目に、ベランダの柵に足をかけ、窓の外へと回り込む。  ブラインドの隙間から中を覗き込んだ。  薄暗い部屋のソファで、カズヤが岡本に身を預けるようにして座っていた。岡本がカズヤの髪を撫でながら酒を口に含ませ、気怠くじゃれ合っている。  声は聞こえない。だが、二人が共有している濃密な空気が、ガラス越しにヨウコウの胸を深く抉った。 (……やめろ。やめてくれ)  身を乗り出した拍子に、足先がベランダに置かれていた空き瓶を蹴飛ばした。  ガランッ。  乾いた音が夜の静寂に響く。 「……ッ!」  ヨウコウは弾かれたようにその場を離れ、階段を転がるように駆け下りた。  背後で、ガラガラと窓が開く音がした。ヨウコウは振り返らず、必死に角を曲がって闇の中へ消えた。  二階のベランダ。窓を開けたカズヤは、遠ざかっていく影を静かに見下ろしていた。やがて、その口から低く乾いた声が漏れた。 「プッ……あっ、あはは」  最初は小さく、やがて肩を震わせるほどに、カズヤは狂ったように暗い笑い声を暗闇に響かせた。 ◇  翌朝。  広いベッドの中で、カズヤはゆっくりと目を開けた。隣では、岡本が穏やかな寝息を立てて眠っている。  カズヤは動かずに、枕元のスマホを手に取った。画面を操作し、着信拒否を解除する。そして、一晩中待ち続けていたであろうヨウコウの番号を呼び出した。 『……ッ、カズヤ!? お前、今どこに……!』呼び出し音が一度鳴るか鳴らないかのうちに、ヨウコウが出た。ひどく掠れた声だった。 「よう。今、俺がどこにいると思う?」 『……ッ!』 「岡本さん、横で寝てるんだけど」 「……お前も、随分と意地悪なことすんのな」背後から声がした。目を覚ました岡本が、体を起こしてタバコに火をつけている。  カズヤは口角を上げ、耳から離したスマホを岡本へと差し出した。 「代わる?」 「ま、いいけど」岡本は面白そうに笑い、カズヤの手からスマホを受け取って耳に当てた。 「もしもし、ヨウコウ君? ……あれ」  岡本が不思議そうに眉を寄せる。 「なんか、切れちゃってるけど」  スマホからは、無機質なツー、ツーという音だけが漏れていた。  岡本はスマホを差し出しながら、面白そうにくすくすと笑った。 「さすがに、ちょっとやりすぎなんじゃないの? 彼、大丈夫かな……」  その言葉を聞いた瞬間、カズヤの中で何かが弾けた。憑き物が落ちたように急激に頭が冷えていくのを感じる。 「知らないよ、大変なことになっちゃっても」  カズヤは岡本から無言でスマホを奪い返すと、床に散らばった服を拾い上げ、急いで身に纏った。 「おや、お帰りかい?」  カズヤは無言で部屋を出た。 ◇  1DKの部屋に戻り、重いドアを開ける。  朝の光が差し込むリビングで、ヨウコウが待っていた。目は血走り、一睡もしていない疲労と怒りでボロボロになっていた。 「……最低だな!」  ヨウコウの叫びが、狭い部屋に響き渡る。 「昨日の夜も、今の電話も……お前ら二人で俺のこと馬鹿にして笑ってたんだろ!」  激昂し、肩で息をするヨウコウ。  しかし、カズヤは全く動じなかった。冷ややかな瞳でヨウコウを見据えたまま、無言で一気に距離を詰める。 「……ッ、なんだよ」  カズヤはヨウコウの胸ぐらを掴み上げると、そのまま力任せにベッドへと押し倒した。 「がっ……! お前……!」  カズヤはヨウコウの上に馬乗りになり、逃げ場を奪うように両腕を押さえつけた。 「……岡本さんじゃなきゃ、ダメなのかよ?」  低く、地を這うような声だった。  突然の暴力的な力と、カズヤが纏う異常な空気に飲まれ、ヨウコウは言葉を失った。 「俺だって同じこと、してあげられるんだぜ」 「……」 「なんだよ、答えろよ」  カズヤに問い詰められても、ヨウコウは何も答えることができなかった。  抵抗することもできず、ただ見下ろしてくるカズヤの瞳に怯えるヨウコウを見て、カズヤの口元に不敵な笑みが浮かんだ。 「じゃあ、お前の体に聞いてやろうか」  カズヤの強引な熱に、ヨウコウの体は抗えずにビクッと震えた。 「やめ……」  微かな拒絶の言葉は、それ以上続かなかった。ヨウコウの力が抜け、カズヤの支配を受け入れるように息を乱す。  抵抗をやめ、熱に浮かされるヨウコウがカズヤの手を強く引き剥がす。 「だめ」 「なんでだよ」 「汚れちゃうから」 「大丈夫だよ。汚さないようにしてやるから」 ——チュン、チュン。  窓の外でに雀が鳴いている。  朝の光が差し込む狭い部屋で、二人の影が泥沼の底に沈むように、深く重なり合っていた。 つづく

ともだちにシェアしよう!