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カズヤ(攻)♡ヨウコウ(受) + カズヤ → 岡本(支配開始)
夜。バーの二階にある、岡本のプライベートルーム。
薄暗い間接照明の下、乱れたシーツの上で岡本が気怠そうにタバコの煙を吐き出した。
ベッドの端に腰掛け、シャツに袖を通すカズヤの背中を見つめ、ふと口を開く。
「……ヨウコウ君、大丈夫だった?」
「あぁ、大丈夫だよ」
カズヤは振り返らずに、淡々と答えた。
「ちゃんと、ケアはしといたから」
「ケアって、何したの?」
岡本が面白そうに目を細める。
「……教えない」
「なんだよ、教えろよ」
カズヤはゆっくりと振り返り、岡本を見下ろした。その瞳には、かつて岡本の余裕に苛立っていた頃の青さは微塵もない。
「……じゃあ、同じことしてあげる」
カズヤが身を乗り出し、岡本の指からタバコを取り上げて灰皿に押し付ける。そのまま、体重をかけて岡本をベッドに押し倒した。
「ちょっ……カズヤ……?」
余裕ぶっていた岡本の声が、わずかに裏返る。カズヤは構わず、岡本がヨウコウに与えていたのと同じ、逃げ道を塞ぐような手つきでその体を支配していった。
◇
数時間後。
床に落ちた服を拾い上げ、カズヤは無言で身支度を始めた。
「……帰るの?」
ベッドの中から、岡本が身を起こす。いつもならあっさりと背中を見送るはずの男の声に、隠しきれない熱と執着が滲んでいた。
「なんで。泊まってけよ」
カズヤは冷ややかな視線をベッドの上の岡本へと向けた。
「帰るよ」
それだけ言い残し、岡本が引き留める間も与えずに部屋を出た。
◇
深夜の1DK。
重いドアを開けると、暗いリビングのソファでヨウコウが膝を抱えて座っていた。
カズヤが部屋に入った瞬間、ヨウコウの肩がビクッと跳ねる。カズヤの体から漂う、甘く焦げたようなタバコの匂いと、岡本の香水の匂いに気づいたのだろう。
カズヤはヨウコウの前にしゃがみ込み、視線を合わせた。
「さっきまで、岡本さんのところに行ってたんだ」
「……」
ヨウコウは顔を伏せたまま、何も答えない。
「それ聞いて、怒んないの?」
カズヤは冷たく笑った。
「何、公認してくれちゃったの?」
沈黙。ヨウコウの震える両手が、膝の上の生地を強く握りしめている。
カズヤは無言のヨウコウの顎を掴み、無理やり顔を上げさせた。
「今日、俺たちが二人で何してきたか……知りたいんだろ? 教えてやるよ」
反抗の意志すら失ったヨウコウの瞳が、怯えたように揺れる。
「っていうかさ」
カズヤの指先が、ヨウコウの唇をなぞった。
「お前はいつも何してもらってたの? 岡本さんに。……教えろよ」
「……ッ、」
「まさか、ずっとゲームしてたなんて言わないよな」
ヨウコウの息が詰まる音が、静かな部屋に響いた。逃げ場のない視線で射抜かれ、ヨウコウの目にじわじわと涙が滲む。
カズヤは掴んだ顎から手を離し、そのままソファに深く腰掛けた。そして、見下ろすように冷たい声で言い放つ。
「ほら、しろよ。さっさと」
ヨウコウはしばらくの間、微かに肩を震わせていたが、やがてゆっくりとソファから滑り降り、這うようにしてカズヤの足元へと身を寄せた。
——チュン、チュン。
窓の外で、いつものように雀が鳴いている。
朝の光が差し込む部屋で、カズヤは鏡の前でネクタイを締め、会社へ行く身支度を整えていた。ベッドの上には、昨夜の疲労と虚脱感でシーツに深く沈み込むヨウコウがいる。
「今日の夜さ、会社終わったらお前のバイト先行こうかな」
鏡越しに、カズヤが唐突に口を開いた。
「え……?」
ヨウコウが微かに身をよじり、掠れた声を漏らす。カズヤは振り返り、冷たく微笑んだ。
「まあいいや。待ってろよ、顔出すから」
カズヤはそれだけ言い残し、ヨウコウの返事も聞かずにバタンとドアを閉めて部屋を出て行った。
◇
夜。
薄暗いバーのカウンターで、ヨウコウは機械的にグラスを拭いていた。少し離れた場所では、岡本が気怠げにグラスを傾けている。
カラン、とドアベルが鳴った。
スーツ姿のカズヤが店に入ってくる。その姿に、ヨウコウの動きがピタリと止まった。
「……本当に、来たんだ」
カズヤはカウンターに歩み寄り、ヨウコウをまっすぐに見つめた。しかし、その口から出たのは酷薄な言葉だった。
「あぁ。……でも、お前に用事があって来たんじゃないんだけどな」
「え……?」
カズヤの視線が、ヨウコウを通り越して奥に立つ岡本へと真っ直ぐに向かう。
「用事はそっちの、岡本さんの方だけど」
カズヤの口角が、微かに、だがはっきりと上がった。その余裕に満ちた笑みを見て、岡本が小さく息を吐く。
「……俺に?」
岡本が苦笑混じりに言うと、カズヤは一歩、岡本の方へと近づいた。
「ちょっと二人で話したいことあるんだけど、いいかな」
「……あっ、あぁ」
岡本はあっさりと頷き、カウンターから離れた。
カズヤはヨウコウを一瞥することもなく、岡本と連れ立って二階の部屋へと続く階段を上っていく。
完全に置き去りにされたヨウコウは、手の中のグラスが割れんばかりの力で握りしめたまま、闇に消えていく二人の背中をただ見つめていることしかできなかった。
つづく
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